2020年の上場企業の事業売却が過去10年で最高

日本の上場企業が事業の「選択と集中」を加速させている。2020年の子会社や事業の売却件数(発表日ベース)は285件となり、過去10年で最多を記録した。コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が導入されるなど、日本の上場企業は、世界的に低いとされる資本効率の改善を迫られており、事業再編につながっている。新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化を受けた事業売却も増えている。

上場企業に義務づけられた適時開示情報にもとに経営権が異動するM&A(グループ内再編は除く)について、M&A仲介のストライク(M&A Online編集部)が集計した。

ストライクによると、昨年1~12月に公表された上場企業による子会社や事業の売却は285件と前の年と比べて35%増えた。子会社・事業売却の件数が、M&A件数全体(849件)に占める比率も33%と過去10年で最も高くなった。自社の競争優位性が発揮される成長分野に経営資源を集中し、生産性やROE(自己資本利益率)を向上させることは長らく日本企業の課題とされてきたが、昨年の事業売却の増加はこうした流れに沿ったものといえそうだ。

ストライクの荒井邦彦社長は企業の子会社・事業売却の加速について「2020年前半は前の年からの構造改革に伴う『選択と集中』を理由にした事業売却が主流だったが、20年9月以降は新型コロナウイルスの感染拡大で業績悪化事業を切り離す企業も目立ってきている」と分析している。

例えば、THEグローバル社は宿泊施設の経営・運営受託子会社のグローバル・ホテルマネジメント(東京都新宿区)の全株式を、Rマネジメント合同会社(東京都新宿区)に譲渡した。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で先行き不透明な状態が続く中、グループの経営再建を促進するのが狙いだった。このほか、主力の「ペッパーランチ」事業を投資ファンドに売却したペッパーフードサービスや、子会社のサノヤス造船を売却すると発表したサノヤスホールディングスなど、コロナ禍を理由とした事業再編が相次いでいる

■上場企業による子会社・事業の売却の推移

【件数】

2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年
上場企業による子会社・事業の売却 216 238 176 204 207 215 217 188 210 285
全M&A 671 729 635 675 680 706 756 785 853 849

【取引金額(億円)】

2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年
上場企業による子会社・事業の売却 6892 6118 5685 6267 9566 31582 31273 8185 16126 49460
全M&A 48447 64048 31132 35700 61630 121407 72934 137836 81748 110559

■上場企業による子会社・事業の売却 2020年の取引金額上位10件

発表日 発表内容 取引金額(億円)
1 2020/9/14 ソフトバンクグループ<9984>、傘下の英アームを米エヌビディアに4.2兆円で売却へ 42000
2 2020/8/24 武田薬品工業<4502>、一般医薬品の武田コンシューマーヘルスケアを米投資ファンドのブラックストーンに売却 2420
3 2020/6/9 アークランドサカモト<9842>、ホームセンター中堅のLIXILビバを約1085億円で買収へ 1085
4 2020/1/23 米ベインキャピタル、三井E&S傘下の昭和飛行機<7404>をTOBで子会社化 694
5 2020/6/12 住友不動産<8830>、中国大連での分譲マンション開発子会社を合弁相手に譲渡 456
6 2020/11/26 キリンホールディングス<2503>、豪州の飲料事業を乳製品大手の現地ベガ・チーズに譲渡 409
7 2020/9/15 フェローテックホールディングス<6890>、半導体ウエハーの中国子会社の株式60%を地方政府などに譲渡 296
8 2020/8/31 ティーガイア<3738>、富士通<6702>傘下の富士通パーソナルズから携帯電話販売事業を約286億円で買収 287
9 2020/8/14 投資会社アント・キャピタル・パートナーズ、スカラ<4845>傘下のソフトブレーン<4779>をTOBなどで子会社化 232
10 2020/5/26 SBSホールディングス<2384>、東芝<6502>傘下の東芝ロジスティクスを子会社化 201
八木チエ

八木チエM&A INFO プロデューサー

投稿者プロフィール

大学卒業後、7年間IT会社の営業を経験し、弁護士事務所に転職。
弁護士事務所で培った不動産投資の知識を活かし、業界初の不動産投資に特化したメディアを立ち上げ。2018年に株式会社エワルエージェントを設立。不動産投資「Estate Luv」、保険「Insurance Luv」などのメディア運営やメディアのコンサル事業に特化。
M&A業界が盛んになった今、M&Aの情報を正しく伝えたい、もっと多くの人にM&Aの魅力を知ってもらいたいと思い、M&Aに特化したメディア「M&A INFO」を立ち上げ。より有益な情報を多く配信している。

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