中小企業の経営者の方は中小企業等経営強化法という法律があるのをご存知でしょうか。この法律はその名のとおり、中小企業の経営を強化するために、様々な施策を講じています。
日本経済の根底を支えているのは、まぎれもなく技術力の高い中小企業の存在に他なりません。国は様々な制度を設けて中小企業が経営を継続しやすいようにしています。例えば、法人税の軽減措置や欠損金の繰越控除、交際費課税の特例などはその代表と言えるでしょう。
今回は、中小企業経営者はぜひ知っておきたい「中小企業等経営強化法」についてお話したいと思います。特に事業拡大のため、新規設備投資をお考えの経営者の方は、是非この法律を理解し、最大限活用するべきでしょう。
目次
1、中小企業等経営強化法とは?
中小企業等経営強化法とは、中小企業の経営基盤が強固なものになるように、国が支援するために制定された法律です。
具体的には、まず、国が中小企業や小規模事業者等に対して、生産性向上に役立つ仕組みを提供します。それに基づいて中小企業や小規模事業者等は経営力向上のための人材育成や財務管理、設備投資など一定の取組を記載した「経営力向上計画」を事業所管大臣に申請し、認定されることで様々な税制支援や各種金融支援が受けることができるというものです。
2、中小企業等経営強化法が制定された背景
中小企業等経営強化法は中小企業・小規模事業者等の生産性向上を目的として設けられました。
我が国においては、人口の減少及び少子高齢化が進んでおり、また国際競争の激化、人手不足など、様々な問題を抱えています。このような環境の中で、中小企業や小規模事業者等を取り巻く事業環境は以前にも増して厳しい状況となっています。
このような環境の中、中小企業・小規模事業者等は生産性が低迷し、人材確保に紛糾するといった状況が続き、なかなか事業が発展できないような状況に陥っています。中小企業・小規模事業者等がこのような厳しい環境から脱却し、維持発展できるようにするためには国を挙げての対策が必須であると考えられます。
3、中小企業等経営強化法による支援を受けるメリット
中小企業等経営強化法に従った経営力向上計画の認定を受けた事業者は、計画実行するにあたり、様々な税制措置と金融支援を受けることができます。
そして、税制措置には、「固定資産税の特例」と「中小企業経営強化税制」の2つがあります。
これにより効率の良い設備等の導入が可能となり、事業拡大を期することができるようにました。
それでは、固定資産税の特例、中小企業経営強化税制及び金融支援について解説していきます。
(1)固定資産税の特例
中小事業者等が、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に従い、平成29年4月1日から平成31年3月31日までの期間に一定の新規設備を取得した場合、その設備の固定資産税が3年間、1/2に軽減されます。
ただし、平成29年度税制改正により新たに対象に追加された設備(測定工具及び検査工具・器具備品・建物附属設備)がありますが、これは、適用できる地域とそうでない地域がありますので注意が必要です。
なお、この特例は上記の該当期間である平成31年3月31日で終了しました。従って平成31年4月以降に取得した設備に対しては適用がないので注意してください。
(2)中小企業経営強化税制
青色申告の承認を受けている中小企業者等が、令和3年(2021年)3月31日までの間に、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に従い、一定の新規設備(対象となる設備については後述)を取得し、その設備を一定の事業に供した場合、以下のいずれかの優遇措置を受けることができます。
- ①当該設備の取得価額を取得した日の属する期に即時に償却すること(即時償却)
- ②取得価額の10%(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)を法人税額から控除すること(税額控除)
(3)金融支援
金融支援等の特例措置には、主に中小企業等に対する資金調達を容易にするための支援措置でこれには、
- 日本政策金融公庫による低金利融資
- 商工中金による低金利融資
- 中小企業信用保険法の特例
- 中小企業投資育成株式会社法の特例
- 日本政策金融公庫によるスタンドバイ・クレジット
- 中小企業基盤整備機構による債務保証・
- 食品流通構造改善促進機構による債務保証
があります。
資金調達が楽になれば事業継続にもある程度余裕ができ事業がやりやすくなるでしょう。
4、中小企業者等とは?
上記における中小事業者等とは、資本金又は出資金の額が1億円以下の法人、資本金又は出資金がない法人で常時、従業員数が1,000人以下の法人、又は常時使用する従業員が1,000人以下の個人をいいます。
ただし、大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人については資本金が1億円以下であっても中小企業経営強化税制については適用できないこととなっています。
これによると、中小企業者等と呼ばれる企業の範囲はかなり広く、世間一般で中小企業と言われている企業のほとんどが中小企業者等に該当すると考えられます。
5、中小企業者等経営強化法で税制優遇措置を受けるための対象となる設備
この法律で税制優遇を受けるためには対象となる設備でなければなりません。これには、生産性向上を目的とした設備(A類型)と収益力の強化を目的とした設備(B類型)があり、それぞれにより要件が異なります。
(1)A類型:生産性向上設備の場合
下表の対象設備のうち以下の①、②の2つの要件を満たせば、中小企業経営強化税制の特例を受けることができます。
- ①販売開始から一定期間内に販売されたもの(最新モデルである必要はありません)
- ②生産性が旧モデル比で年平均1%以上向上しているもの
要件①、②については、設備メーカーからなる団体(機械工業会等)が発行する証明書等の取得が必要となります。証明書は販売店等を通じ、当該設備のメーカーに依頼することになります(発行まで数日~2ヶ月程度)。
(2) B類型:生産性向上設備の場合
A類型の要件を満たさなくても、下表の対象設備のうち、年平均の投資利益率が5%以上になることについて経済産業局等が発行する確認書を取得すれば、中小企業経営強化税制の特例を受けることができます。この場合、販売開始時期を問いません。
設備区分 | 最低価額 (1台又は1式) |
販売開始時期 (固定資産税・A類型のみの要件) |
対象設備の具体例 |
機械装置 (※1)(※2) |
160万円以上 | 10年以内 (最初に販売されてから 10年以内のモデル) |
農林漁業
トラクター、油圧ショベル、ホイールローダー、魚群探知機など 食品製造 自動充填・包装機、異物検出装置、色彩選別機、ロボットパレタイザー、自動皮むき機など 卸・小売 精米機、スライサー、自動洗浄機、生ゴミ処理機など 外・中食 低熱伝導フライヤー、すしロボット、コンベクションオーブン、食器洗浄機、ご飯盛付け機、自動券売機など |
器具備品、工具 (※2)(※3) |
30万円以上 | 器具備品:6年以内 工具:5年以内 |
農林漁業
冷房・暖房用機器、オートステアリングシステムなど 食品製造 成分分析計、コンピュータスケール、包装機など 卸・小売 冷蔵ショーケース、デポジッター、POSレジ一式など 外・中食 コーヒーマシン、卓上串刺機、タッチパネル券売機、セルフオーダー・セルフレジシステム、冷蔵冷凍庫など |
建物附属設備 (※2) |
60万円以上 | 14年以内 | 農林漁業
シートシャッター、薪ストーブ、畜糞処理機など 食品製造 ボイラー、給排水設備、ベルトコンベアなど 卸・小売 空調・暖房機器、冷凍冷却設備、自動ドアなど 外・中食 LED照明、エレベーター、エアーカーテンなど |
ソフトウェア (※4)(※5) |
70万円以上 | 5年以内 | 販売・在庫・製造原価管理システム、栄養管理システムなど |
出典:農林水産省「中小企業等経営強化法等活用ガイド」
※1 : 発電用設備にあっては、主として電気の販売を行うために取得等をするものは除きます。
※2 : 固定資産税の特例を受ける場合、対象となる設備や対象となる業種は市区町村により異なる場合があります。
※3 : 税の特例の適用が受けられる工具は、測定工具、検査工具のみ。
※4 : 法人税・所得税の特例のみ適用可。要件①の場合は、情報収集機能及び分析・指示機能を有するもののみ。
※5 : 複写して販売するための原本、開発研究用のもの、サーバー用OSのうち一定のものなどは除きます。
6、中小企業等経営強化税制によりどれくらいお得になるのか?
では、具体的に中小企業等経営強化税制によりどれくらいお得になるのでしょうか?
例えば、3,000万円の機械装置を新規取得した場合 (耐用年数10年、資本金3,000万円、税額控除額は取得価額の10%又は法人税額の20%のいずれか低い額とする)
- ①10%の税額控除により 最大300万円を法人税から控除
- ②固定資産税の軽減により 3年間で91万2千円の減税効果(赤字企業でも利用可能)
従ってこの場合、①と②の合計で「391.2万円」の減税効果となり、かなりお得な制度であることがわかります。
7、中小企業等経営強化法による支援を受けるために
まず、事業所管大臣はこの法律に基づいて「事業分野別指針」を策定します。事業分野別指針とは、
- 顧客データの分析
- ITの活用
- 財務管理の高度化
- 人材育成など
事業者が行う経営力向上のための取組みをまとめたものです。
この事業分野別指針では、以下のような、業種ごとの現状認識、課題、目標、経営力向上に関する指針などがまとめられています。
- 農業、林業、漁業者、水産養殖業者
- 食料品、飲料製造業者
- 木材製造業者
- 飲食料品卸売業者、小売業者
- 飲食店
そして、中小企業・小規模事業者等は、この事業分野別指針を踏まえて、自社にあった人材育成の取組、コスト管理のマネジメントの向上や設備投資等、経営力を向上させるための取組み内容などを記載した事業計画(経営力向上計画)を策定します。
自社の経営力向上計画について、申請し、認定を受けた事業者は、固定資産税の特例、中小企業経営強化税制といった税制上の優遇措置や金融支援等の特例措置を受けることができるようになります。
なお、経営力向上計画の認定を受けるには所定の申請書様式に記入し、設備メーカー等の団体が発行する証明書等を添付し、最寄りの地方農政局等に提出します。計画の提出から認定までの期間は約1ヶ月程度です。
申請書には、労働生産性などの目標、経営力向上のための施策などを記載します。計画作成については、商工会等の支援機関にてサポートが受けられます。
要約すると以下のような手順となります。
- Step 1:経営内容や状況の認識
- Step 2:将来計画の検討・見直し
- Step 3:経営力向上計画の策定(証明書の入手)
- Step 4:地方農政局等による審査・認定
- Step 5:機械装置などの対象設備を購入(※)
- Step 6:経営力の強化の実現
(※)設備取得後に経営力向上計画の申請を行う場合は、設備取得日から60日以内に地方農政局等にて計画が受理されなければなりません。
また、経営力向上計画の申請先は以下のとおりとなっています。
主たる事務所の
所在する都道府県 |
担当の窓口 | TEL |
北海道 | 北海道農政事務所(札幌市) | 011-330-8810 |
青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県 | 東北農政局(仙台市) | 022-221-6146 |
茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県、静岡県 | 関東農政局(さいたま市) | 048-740-0164 |
新潟県、富山県、石川県、福井県 | 北陸農政局(金沢市) | 076-232-4149 |
岐阜県、愛知県、三重県 | 東海農政局(名古屋市) | 052-746-6430 |
滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県 | 近畿農政局(京都市) | 075-414-9024 |
鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県 | 中国四国農政局(岡山市) | 086-222-1358 |
福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県 | 九州農政局(熊本市) | 096-300-6325 |
沖縄県 | 沖縄総合事務局(那覇市) | 098-866-1673 |
出典:農林水産省「中小企業等経営強化法等活用ガイド」
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まとめ
今回は、中小企業等経営強化法について解説しましたがいかがだったでしょうか。
中小企業等経営強化法は、経営力向上に取り組む中小企業等に優遇を与えるという少し独特の制度です。このような優遇制度は、きっちりと理解し、活用してそのメリットを享受しなければなりません。
経営力向上計画と聞くと少しやっかいな感じもしますが、計画書は実質2枚程度です。しかも、記載することの大半は、本来、経営者として考えておかなければならないこととばかりです。これを機に、担当の税理士等とも相談して、経営環境の分析や経営力向上のための施策にしっかりと取り組んでみてはいかがでしょうか。
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