「事業承継税制という言葉を聞いたことあるが、いったいどんな税制で、どうやったら利用できるのかわからない」という方も多いでしょう。
この記事は、事業承継税制の制度の概要、特徴、利用にあたっての流れ、留意点を書いています。事業承継税制について詳しく知りたい方は是非、この記事を読んでみてください。
1、事業承継税制とは
「事業承継税制」は、中小企業の後継者が非上場会社の株式を先代経営者から贈与・相続により取得した際に、贈与税・相続税が猶予又は免除される制度です。
端的に言ってしまうと、経営権(株式)を次世代の後継者に渡した分については、相続税や贈与税を、最大で全額免除にしてくれる制度なのです。
事業承継税制には下記4つの特徴が挙げられます。
- 親族以外の者が承継しても適用できる
- 贈与または相続の場合に適用できる(※株式の代金を支払う場合は適用できません)
- 相続税、贈与税が猶予される(税金の支払を先延ばしにできる)
- 要件を満たすことで支払を先延ばしにしていた税金が免除になる
2、事業承継税制の背景
経営権を後継者に渡したときは、通常多額の税金が発生します。
昨今、後継者不足で悩んでいる中小企業が多くある中で、事業承継に係る税金も多額に発生してしまうと、中小企業の事業継続が難しくなり、倒産が増え、雇用も失われてしまいます。
創業者である父親の会社の株式を相続により取得しようとしたが、思ったよりも相続税が高くなってしまい事業を引き継げなかったというケースが実際に起きています。
そこで、円滑な事業承継を税金面からサポートする目的で、贈与、相続税を猶予または免除する制度として事業承継税制が作られました。
3、どんな人が使えるの?事業承継税制が利用できる要件
まず、当然ですが相続、贈与する後継者が決まっている事が前提です。
その際に1人だけに限定する必要はなく、最大で3人に引き継ぐことができます。
この税制の適用を受けるためには、大きく下記4つの要件があります、
- (1)会社に関する要件
- (2)後継者に関する要件
- (3)先代経営者に関する要件
- (4)先代経営者以外の株主等に関する要件
では、それぞれにみていきましょう。
(1)会社に関する主な要件
会社に関する主な要件としては以下にて挙げられます。
- ①中小企業者に該当する会社であること
- ②上場会社でないこと
- ③風俗営業会社でないこと
- ④資産管理会社でないこと
また、中小企業者は、下記の業種分類にしたがって、資本金の額と従業員数のいずれかに当てはまる者です。
業種分類 | 資本金の額又は出資の総額 | 従業員数
(常時使用する人数) |
製造業その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5千万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5千万円以下 | 100人以下 |
(2)後継者に関する主な要件
後継者に関する主な要件は以下にて挙げられます。
- ①会社の代表権を有していること
- ②20歳以上であること
- ③特例承継計画に記載された後継者であること
- ④後継者とその関係者で会社の総議決権の50%超を保有していること
- ⑤後継者の議決権が次のいずれかに該当すること
-後継者が1人の場合・・・後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権を有すること
-後継者が2人又は3人の場合・・・総議決権の10%以上の議決権を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権を保有すること - ⑥(贈与の場合)役員の就任から3年以上を経過していること
- ⑦(相続の場合)相続の開始の直前において役員であり、相続の開始の翌日から5か月を経過する日以後に代表者であること
(3)先代経営者に関する主な要件
先代経営者に関する主な要件は以下にて挙げられます。
- ①会社の代表権を有していたこと
- ②特例承継計画に記載された先代経営者であること
- ③(贈与の場合)贈与時に代表権を有していないこと
- ④(贈与の場合)贈与の直前に、先代経営者と同族関係者で総議決権の50%超を保有し、かつ同族内(後継者を除く)で筆頭株主であったこと
- ⑤(相続の場合)相続の開始の直前に、先代経営者と同族関係者で発行済議決権株式総数の過半数を保有し、かつ、同族内(後継者を除く)で筆頭株主であったこと
(4)先代経営者以外の株主の主な要件
先代経営者以外の株主は主に以下の要件が挙げられます。
- ①代表権を有していないこと
- ②特例措置及び一般措置の認定を受けた贈与を行っていないこと
各要件は、細かく定められていますので、ご自身の会社が当てはまるかについては、各都道府県に事業承継税制の窓口があるので問い合わせ見ると良いでしょう。
4、事業承継税制の流れ
では、実際に利用する時はどのような流れになるのでしょうか。
事業承継税制を利用して、相続税・贈与税を全額免除するためには下記の手続きが必要です。
相続税、贈与税の猶予、免除制度を受けるための7ステップをご紹介します。
STEP1:特例承継計画の作成、申請
認定経営革新等支援機関(税理士、商工会議所等)と協力しながら特例承継計画を作り、都道府県知事に申請し確認を受けます。
申請書類などについてはこちらから確認してみて下さい。
STEP2:相続開始または贈与
先代経営者から株式の相続、贈与を受けます。
STEP3:認定の申請
事業承継税制適用の要件を満たしていることについて、都道府県知事の認定を受けます。
STEP4:相続税、贈与税の申告
申告期限までに相続税、贈与税の申告を行います。この時点で、事業承継税制を適用した株式にかかる相続税、贈与税は猶予され税額は発生しません。
STEP5:申告後5年間の事業継続
認定を受けてから5年間は、後継者が事業を継続しなければいけません。また従業員の雇用についても8割を守らなければなりません。
STEP6:さらに5年間の株式継続保有
STEP5経過後5年間は、株式を継続保有することが必要です。
STEP7:免除事由の発生による税金の免除
①免除事由の発生による贈与税の免除
先代経営者が死亡、後継者の死亡、後継者から次の後継者へ贈与した場合は、猶予されていた贈与税が免除されます。先代経営者が死亡した場合、贈与税は猶予されますが、相続税が発生します。しかし、相続税の納税猶予に切り替えることで引き続き納税猶予制度の適用を受ける事ができます。
②免除事由の発生による相続税の免除
後継者が死亡した場合、納税猶予されていた相続税は免除されます。その段階で、事業承継税制の要件をクリアすれば、次の後継者が納税猶予を受けることができます。また、後継者が、さらに次の世代の後継者へ、事業承継税制を適用し株式を一括贈与した場合は、相続税、贈与税が免除されます。
事業承継税制の要件をクリアしながら、次の後継者へ事業を承継し続けることができれば、税金が免除されるのです。
長期間にわたる制度となっており、最初に検討をしっかりとしておくことが大事です。
(図解)贈与税の納税猶予制度の流れ
出典:中小企業庁HP「相続税、贈与税の納税猶予制度の特例」
(図解)相続税の納税猶予制度の流れ
出典:中小企業庁HP「相続税、贈与税の納税猶予制度の特例」
なお、事業承継税制の他に、事業承継補助金も国から出ています。こちらの利用条件などについては詳しくは下記の記事を参考にしてみてください。
5、事業承継税制利用にあたっての5つの留意点
最後に事業承継税制利用にあたっての留意点を説明します。
(1)申請期限がある
相続税、贈与税の全額猶予、免除を受けるためには、期限があります。
平成30年4月1日から平成35年3月31日までに、都道府県庁に「特例承継計画」を提出していること。記入方法は「サービス業」「製造業」「小売業」業界別に参照にしてみて下さい。
平成30年1月1日から平成39年12月31日までに、贈与・相続により株式を取得すること。
(2)不正な申請が発覚した時は取り消しとなる
事業承継税制の適用を受けた後に、納税猶予の取り消し事由に当てはまると、贈与税、相続税が発生してしまいます。
(3)遺留分に対する調整が必要な場合がある
特定の相続人のみに株式を相続した場合、遺留分が発生し各相続人間での調整が必要になります。
(4)税額によって利用を検討すべき
相続税が多額に発生しない状況では、利用しないほうが良いケースもあります。
(5)資料を作成する手間が発生する
毎年、都道府県や税務署に資料の提出が必要になり、資料作成などのコストがかかります。
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まとめ
事業承継税制は、長期にわたり様々な要件が定められています。実行にあたっては専門化のアドバイスを受けながら計画を作成し、後継者とよく協議し、計画を遂行していけば、とても大きな税金のメリットを受ける事ができる制度になっています。
これから事業承継を検討されている方は、ぜひ一度事業承継税制について知っておきましょう。
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