M&Aをする前の仕組みづくりが重要 | 株式会社フォーバル 部長 山田 健一
「M&Aをする前にそれを受けられる会社の仕組み作りが重要」と話しているのは、株式会社フォーバルの事業承継支援部の山田健一(やまだ けんいち)部長です。
フォーバル社は1980年に設立し、日本国内47都道府県に海外4カ国に支社がある経営コンサルティングの会社です。約20,000社の経営相談契約顧客に対して、従来の経営コンサルの他に「M&Aをするためのコンサル」も本格的にスタートしました。日本全国エリアに支店があるという強みを活かし、どこのエリアでもM&Aのサポートをすることができます。
また、40年間の経営コンサルのノウハウを活かし、赤字会社、債務超過の会社のM&Aも積極的に対応できるのは、フォーバル社ならではの強みと言えます。
今回は山田部長にコロナウイルスの影響によるM&A市場の動き、事業承継における課題、自動車アフターマーケットに対する事業承継の取り組みなどについてお話を伺わせて頂きました。事業承継で悩まれている方、M&Aを経営戦略として検討されている方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
1、コロナウイルスの影響を受け、しばらくの間はM&Aの取引件数はどんどん減っていく
八木:活発に動いているM&A業界。中小企業を特化している御社ですが、これから中小企業のM&Aについてどのような動きになるとお考えでしょうか?
山田部長:新型コロナの影響はかなり大きくて、特に当社の場合は中小企業、小規模企業まで幅を広げて対応していますので、1店舗、2店舗しか持っていないような小規模の飲食店は、お客さんが来ないことによって、資金繰りが一気に悪くなっており、極めて厳しい状況と言えます。
八木:中小企業は一気に悪くなっているのですね。買手はどうでしょうか?
山田部長:譲受を検討している会社は、譲渡会社より基本的には規模が大きい会社になりますが、それでも自社の足元売上が大幅に下がっており、目先はM&Aを保留にして世の中の動向を注視しながら、落ち着いてきたら改めて検討しようという会社が多いように感じています。
例えば、本来であればデューデリジェンスに入っていくタイミングですが、一旦デューデリジェンスをストップするというような話も出ています。
八木:買手会社も少なからず影響を受けていますね。どの業種の影響が大きいでしょうか?
山田部長:イベント運営会社、飲食店などは多大な影響を受けていますね。また、直接ではなく間接的に影響を受けている業種も多くあります。例えばテレワークの増加によりスーツを着なくなったことで、クリーニングに出す人が一気に減り、クリーニング店は大きく影響を受けていたり、自粛要請対象になった居酒屋へ食材を下ろしていた食品会社に影響が出たり、様々な業種業態の会社に影響が出てきています。
八木:確かに出社する必要がなければ、シャツとかスーツとか着なくなりますね。
山田部長:これ以上どこまで影響が出るのか我々も検討がつかないところがあります。今後生き残りのためのM&Aによる譲渡を模索する中小企業は増えてくるのではないかと考えています。
八木:買手はつきますか?
山田部長:譲渡希望会社が増えてくると、買い手市場になってきます。このタイミングで飛びつかなくてもいいよね、もう少し待てばさらに希望条件に合致する会社が出てくるよね、というような温度感に変わっていくと考えられます。
八木:2月のM&Aの件数は堅調な伸びを見せていたのですが、3月、4月この先に関してはM&Aの件数は減るのでしょうか?
山田部長:取引件数は目先下がっていく流れになると思います。
ただ、M&Aの意欲が減るというよりは、上述の通り現状推移を見守る会社が増えてくると思います。会社を成長させるよりも、自社はどうなっていくのだろう、影響が出た時の対応はどうすればいいだろう、という有事対応がメインになってくるでしょう。
八木:コロナウイルスの先行きが不透明ですからね。
山田部長:一方、今回の新型コロナで逆にいい影響を受けている会社、例えばテレワークによってパソコン機器の需要が高まり、パソコン販売会社の売上が伸びたりなど追い風になる会社もあります。そのような会社は今が会社を譲り受けるチャンスと考え、積極的に譲り受けていく会社も中にはあると思います。
ただ、総じて譲受の検討意欲は下がっていくと思います。
2、 M&Aをするためのコンサルティングが本格的にスタート
八木:御社の経営相談契約顧客が約20,000社いらっしゃると伺っておりますが、実際にご契約されている顧客の中で、M&Aのご成約実績も多いでしょうか?
山田部長:これまでは当社の顧客ではない会社の成約実績が多かったのですが、現在コンサルティングを行っている顧客の中で譲渡や譲受のニーズをお伺いしているところで、これから当社顧客の成約件数が一気に増えてくると考えています。
八木:どっちかというか、売手会社になりうる会社が多いとのことでしょうか?
山田部長:そうですね。当社の顧客は中小・小規模企業がメインとなっているため、後継者問題を抱える会社も多く、結果的に譲渡検討される会社が多くなっています。
そこで、今後はM&Aを活用した成長戦略の積極的活用をお客様にご提案し、今後増やしていきたいと考えています。
八木:M&Aを経営戦略と思っていない方が多いですよね。
山田部長:ただ売ればいい、買えばいいではなく、5年後に自分の会社で何をやりたいのか、できないところはどこなのかなどを明確にしておくことが重要です。
できないところはM&Aを活用して会社を買収する、というような戦略を一緒に作っていこうというものは、今までのコンサルの中でしたことがないので、中長期計画を立てていくなど、M&Aをするためのコンサルが動き出しています。
八木:通常のコンサルとは別ですか?
山田部長:M&Aをするためのコンサルです。
売りも買いも紙一重なので、自社で成長させるのはしんどい、ものが足りない、その解決策として他社の力を借りることによって、例えば大手企業の傘下に入って成長させるのもそうだし、会社を買うのもそうですが、目的を達成することに繋がっていきます。
本当に売りと買いは紙一重だから、M&Aはゴールを求めるための戦略なので、本当にどっちに行ってもいいと思います。
3、47都道府県、離島エリアも積極的に取り組む
八木:中小企業をメインとされているM&A仲介会社は、東京圏以外の案件はあまり積極的じゃないというイメージがありますが、御社はいかがでしょうか?
山田部長:当社はエリアを絞らずに対応しています。基本は国内案件に限定するのですが、47都道府県、離島でも対応しています。
八木:東京圏外の会社は喜びますね。
山田部長:中小企業を対象とするM&A仲介会社は、案件の規模が小さくなると、交通費などの経費を考えたら、仕方がない部分もあるかもしれないですが、当社の場合は全国各地に事務所があるのは強みです。
八木:各事務所にてM&Aの対応ができるのですか?
山田部長:M&Aの拠点としては東京のみになりますが、各事務所にて数多くの顧客を抱えていますので、その拠点を活用してM&A相談対応が可能です。また、今はWEB会議を柔軟に活用しながら対応しておりますので、どのエリアでも全く問題ありません。
八木:各拠点でM&Aの相談ができるのは、顧客としても嬉しいですよね。
山田部長:もう1つこのような対応ができる理由としては、当社は経営コンサルとして様々な情報サービスを提供していますので、例えばM&Aを通じて当社を知った買手会社に対して、当社のコンサルサービスを提案することができたり、PMIと合わせて経営コンサルの提案ができたりします。
八木:M&Aをきっかけに経営コンサルに繋がっていくのですね。
山田部長:当社は海外4カ国に現地法人を構えていて、現地の日本法人の経営コンサルをしています。
例えば海外への進出を検討されている会社は、現地事務所の担当者から情報提供してもらうことができます。そういった意味では、たとえ目先のM&Aの成功報酬がゼロ円だとしても、当社としてはこのさき10年、20年、30年のコンサルをさせて頂いた時の収益を得られます。お互いにWinWinの関係で持っていけたらいいと考えています。
八木:細く長くお客様と付き合っていくという考え方ですね。
山田部長:もちろん目先で大きい案件を決めるのもありますが、ただそれだけでは追っていません。地方案件もそうですし、小企業案件も積極的に対応しているのもその理由です。
八木:一貫としたサービスを提供できるのは強いですね。
山田部長:当社は特にM&Aの戦略を立てるところからコンサルとして入っていきますので、会社を買収する前に組織を立て直した方がいいとか、買収したあとにもちゃんとうまく連携できる会社にする、磨きあげしています。
八木:M&Aによるシナジー効果を最大化に発揮できる組織の立て直しをしてくれるのですね。
山田部長:当社ではプレM&Aと呼んでいます。M&Aをする前のコンサルをしっかりフォローしていれば、M&Aをしたあともずっと繋がっていくことができます。
やはりこうやって長くお付き合いしていくことによって、当社として商売が成り立ちます。
4、事業承継は社長本人よりも、家族の影響力が大きい
八木:御社の顧客から事業承継のご相談も数多く受けているかと思いますが、事業承継の現状について教えてもらえますか?
山田部長:事業承継に関する相談は日々あって、少子高齢化の影響で跡継ぎがいないという相談は圧倒的に増えています。
八木:やはり跡継ぎがいないのは多いですね。
どのような解決策があるのでしょうか?
山田部長:基本事業の場合は、お子さんに継がせるか、番頭に継がせるか、M&A、上場、廃業の5つの選択肢の中から解決策を選びます。
お子さんに引き継ぎとなると、お子さんが引き継ぎたくないなどの問題が出てきたり、番頭に引き継ぐとなると、経営者のノウハウがなかったり、株を買い取るお金がなかったりなどの問題が出てきます。
八木:様々な壁がありますね。
山田部長:上場となるとそう簡単にできるものではないので、次の選択肢となるとM&Aと流れてきます。ただ、選択肢として挙げられるのですが、実際にM&Aに踏み切れる会社とそうでない会社の違いは、「自分はまだまだ現役でいられる」というところです。
八木:事業承継の場合はそのようなオーナーが多いですよね。
まだやれるからと言って、結局そのままずるずる経営を行っていってしまうんですね。
山田部長:会社を売却することに、恥ずかしいと思われている方がまだまだ多いのは実情です。
万が一な時に備えて、今のうちから行動を起こす必要があると話すと、一部の経営者は「元気なうちに」と行動を起こされます。
八木:この前インタビューをした売手会社の会長さんは、会社はいずれ売る、だったら一番高く売れる時に売ると、まさにこれから成長していくというタイミングで売却されました。
売却したあとの生活は自分の趣味で満喫していて、かなり楽しんでいるようです。このような考え方を持てるオーナーが増えるといいですね。
山田部長:ほとんどの方は、24時間365日ずっと仕事一筋に生きてきてこられているので、急に仕事を辞めたら何をしたらいいか分からなくなりますよね。
八木:不安とか、恐怖もあるのですね。
山田部長:例えば奥さんからしたら、社長夫人じゃなくなることに寂しさを感じ、もう少し頑張って欲しいと奥さんに言われ、そのまま事業を継続される経営者もいます。また、ボケ防止のために仕事を継続したいという方もいらっしゃいます。
八木:家族の影響も大きく、社長一人で決められることではないですね。
5、赤字会社の売却実績も豊富
八木:赤字会社に対して敬遠しがちな仲介会社が多い中で、御社は積極的にサポートすると伺っておりますが、詳しく教えてもらえますか?
山田部長:私たちは最も意識していることがあって、それは「最初に決算書を見ない」ということです。中小企業に関しては、債務超過で赤字、役員報酬を取らずに自己資金でなんとか継続している会社が多いです。
そこで私たちは「これまで商売をやってこられた理由」を伺いながら、創業してから今までの歴史を伺いします。事業の強みなどを分析して、どのような会社に引き継いでもらったら、その強みを活かせて売上を伸ばせるかもしれないという仮説を立てて候補先とのマッチングを行います。
八木:経営コンサルが強みである御社ならではのサービスと言えるでしょう。
山田部長:ただ、中にはどうしてもご縁が作り切れないような会社もあります。
当社で様々な仮説施策を立てて迅速に活動し、それでも解決策が見つからない場合は、経営者と現実に向き合うための打ち合わせを重ね、清算廃業のご支援をさせて頂くこともあります。
八木:廃業する会社が本当に増えていますよね。
山田部長:うちみたいな小さい会社なんか買ってもらえないと思っている経営者はまだまだ多いです。何十年も経営出来てきたこと自体が世の中の変化に適応し続けてこられた証左であり、素晴らしいことです。ただ、直近では後継者不在やこれまで以上に目まぐるしく変化する環境への適応ができていないだけで、今であれば次の世代へ想いを残せるチャンスは必ずあると我々は伝えています。
八木:本当に残念ながら、当サイトでも廃業の記事が多く見られています。
借金がなかったり、借金を返済する余力があるいい会社だからこそ廃業しやすく、どんどんいい会社の廃業が増えています。今まで努力してきたのにこのまま廃業するのではなく、M&Aを活用して会社を継続して頂きたいですね。
山田部長:本当そうですよね。当社は赤字会社の売却実績は多くあります。赤字、債務超過、従業員は社長一人などのような会社も、事業譲渡で成約したケースもあります。
八木:社長も含まれるのですか?
山田部長:社長は先方の会社に事業部長として入ってもらい、社長に依存していた技術力やノウハウを引き継ぐような事業譲渡です。我々では転職型M&Aと呼んでいます。
実際に人材不足で、技術力を欲しがるケースが多く、技術力を持っている人に高い年収を払っても欲しいと思いますし、そこにプラスしてお客さんもついてきてくれるなら、買手としてのメリットは大きいですよね。
八木:人材、技術、顧客の3セットですね。
山田部長:そのような条件であれば、譲渡会社の債務を完済して、次のステップに行けます。
6、自動車アフターマーケットでの事業承継相談に力を入れている
八木:御社は自動車アフターマーケットの事業承継事業に、かなり力を入れていると伺っておりますが、詳しく教えてもらえますか?
山田部長:自動車アフターマーケットには、板金、車検、整備などが含まれていますが、全国で72,000社、96,000事業所あると言われています。業界再編による事業承継ニーズが急激に高まってきているため、当社で注力して支援させて頂いています。
八木:具体的にはどのような取り組みでしょうか?
山田部長:1つは、業界の方々は必ず購読されている業界誌「日刊自動車新聞」に、昨年から事業承継コラムを連載執筆しています。
八木:こちらですね。
事業承継からはじめ、M&A、会社の評価方法など様々な記事がありますね。
山田部長:それから、1万社が加盟している「日本中古自動車販売協会連合会」様と提携させていただき、連合会加盟店の事業承継問題を取り組みさせて頂いています。
八木:1万社も入っているのですね。
山田部長:あとは、あいおいニッセイ同和損保様とも業務提携していて、自動車保険を取り扱っている代理店様の事業承継問題解決に取り組んでいます。
八木:再編になる背景はなんでしょう?
山田部長:1つ目は人材不足です。若者の価値観の変化による車離れと少子化を背景に、整備士になる人数が減っています。
2つ目は経営者の高齢化です。他業界と比べても経営者の高齢化が進んでおり、この先数年で健康年齢を超える経営者が急増してくると想定されます。
3つ目は、今後車検制度が変わることから、変化に対応できなくなる整備工場が増えることも業界再編が起こると想定している背景となります。
八木:車検制度はどのように変わるのですか?
山田部長:安全運転ということで、危険を察知したら自動的に止まる機能に自動センサーがついている車が増えています。この機能は今の車検の必須チェック項目に入っていないのです。
八木:そのセンサーはついていますが、実際に車検の時はその機能のチェックは入っていないのですね。
山田部長:現状においては電子制御装置整備は車検制度に入っていないから、今まで通りに小規模の整備工場でも車検の対応ができるのですが、今後車検の必須チェック項目に追加されることによって、対応できなくなる整備工場が増え、業界の再編に繋がります。
八木:車検を対応できなくなる理由はなんでしょう?
山田部長:そのセンサーが正常に動作するか確認するために、実際に車を動かして反応を確認する一定のスペースが必要となります。今までは最低限の広さで車検対応していた整備工場は、そのセンサーをチェックできる広さがないことから、そもそも車検を受けられないことになります。
八木:広さが必要になるのですね。
山田部長:また、今までの整備技術だけではなく、電気工事士のような知識や経験が必要になってくるので、人材難は一層深刻になっていきます。
このような背景で一気に業界が変わります。
八木:これからすごい再編が起きますね。
山田部長:会社がどんどん集約されていくイメージです。
やはり車検整備だけではなく、車検に来てくれたお客さんに乗り換える車販売をしたり、その時に自動車保険の提案をしたり、「車販売」、「保険」、「車検整備」の3セットとして販売ができているところは伸びています。
この3つのセットをうまく回せると、来店客との関係性が深まり、結果として末永い取引に繋がっていきます。
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