事業承継をする際に、きちんと法的の手続きをしなかったことによって、本来会社を引き継いでほしい後継者に引き継いてもらえなかったり、後継者に巡ってトラブルになったケースも少なくないでしょう。
今回は、隼あすか法律事務所のパートナー弁護士の多田光毅先生に事業承継にめぐり、実際にあった相談実例を伺わせていただきました。同じような過ちにならないよう、これから事業承継の後継者決めを考えている方はぜひ読んでみてください。
1、実際の相談内容
弁護士の場合は、平常時に相談をされることはあまりなく、想定外の事態が生じ、法律上どうしたらよいかわからないといった、真に我々が必要となった段階で相談を受けることが多いです。
中小企業の場合は大手企業とは異なり、会社は代表取締役だけ設けていて、取締役、監査役などの機関構成を設けていないケースは少なくありません。そこで今回はそのような機関構成を設けていない会社での事業承継にまつわる相談事例を一つご紹介します。
ご相談頂いた会社は、会社の代表取締役の方がお亡くなりになられたのですが、その会社には、機関構成として、そのほかに会社法上の取締役の方がおりませんでした。
その会社の代表取締役は、ある従業員の方に今後の会社を引き継がせる意向を持っておりましたが、予め公正証書遺言を作成しておくとか、会社の取締役として選任しておくとか、生前に何らかの方法をとっておかれれば、紛争にはならなかったのでしょうが、そのような方法はとられていませんでした。
そのため、当該代表がお亡くなりになられた後、会社の資金調達、ローンの返済や取引先との契約締結等の業務執行権限がある方が存在しない状態になりました。一方で、相続により株式全てが当該代表の親族の方々に承継され、当該親族の方々は会社の業務執行について全くわからず、遺産分割協議をしている間に、新取締役の選任もなされず、従業員との対立の表面化等により、会社の業務が事実上ストップしてしまい、会社の存続に関わる事態となりました。
2、実際の解決策
会社が倒産という事態となれば、多数の取引先や従業員に対する甚大な損害が発生してしまいます。そのような最悪の事態を避けるために、会社の業務執行の再開をすることが最優先事項であり、従業員や相続人である株主の皆様の権利関係の調整はその後ということで考えました。
そこで、当該従業員側からは、緊急的措置として、一時取締役の職務代行者の選任申立を裁判所に行い、中立公正な一時取締役のもとで会社の業務執行を再開することを企図しました。
最終的には、株主側である親族の方々において、株主総会を開催していただくことができ、適切な取締役を選任して、円満に会社の業務執行を再開することができました。
3、注意すべきポイント
今回のような事態になったのは大きく下記2つのことが原因だと考えます。
- 会社の機関構成の不備
- 事業承継する時の法的措置の不足
法的側面からのポイントとしては、会社法上の機関構成、公正証書遺言等を用いて仕組みを構築することは当然ながら考えておかれるべきです。
これに加えて、運用面においては、一刻を争う緊急事態となる可能性も視野に入れ、業務執行ができる人材の確保とその法的な権限付与、会社の業務執行のための法的書類の保管場所等が明確になっているのかといった事務的なことも重要になってまいります。
プロフィール
多田 光毅 弁護士
隼あすか法律事務所
2001年弁護士登録(東京弁護士会)。現在、隼あすか法律事務所エクイティパートナー。
約20年にわたり、企業法務を専門に、弁護士として現場の最前線で業務を行なってきた。具体的には、株式公開買付等M&Aの第三者委員、創業者のエグジットとしてのM&A、不動産ファンドの証券化・流動化、アニメ・コンテンツ配信等のIT企業を代理して、買収・事業譲渡、知的財産権保護のための交渉、各種製造業等の国際取引、労務紛争、破産管財人、国際商事仲裁・訴訟、プロスポーツ選手代理人等であり、実務の運用に詳しい。
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