会社の価格算定方法!企業や法人の価値はどのように計算するのか?
近年、会社売却を希望している会社が増加しています。主な理由として、中小企業経営者の高齢化に伴う後継者問題などが挙げられます。
また、会社買収を行う企業の数も増加しておりM&A業界は活発となっています。そこで問題となるのが会社価格の算定となります。
自分の会社はどれくらいの価値なのか、どのように計算するのか、について気になっている経営者もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、会社価格の算定方法について解説していきます。
目次
1、会社を売却する目的
上記で会社売却を希望している会社が増えていると書きました。では、どのような目的で会社売却を検討しているのでしょうか?
一般的に会社売却をする目的は以下のような4つのポイントが挙げられます。
(1)売却益を得るため
経営者が会社売却を行う目的は、売却益を得ることが目的であるケースが多いでしょう。会社を売却することで、多額の売却益が得られれば、高齢の経営者なら、引退後の生活費を確保できます。また、経営者としてのプレッシャーからも解放され、精神的にも安定した生活を送ることができるでしょう。
中には売却益を得て、海外留学、新しい事業の立ち上げなど新たな挑戦を始める経営者も多くいらっしゃいます。
(2)事業を承継するため
第三者への事業継承も、会社を売却する目的の1つに挙げられます。後継者がいないですが、苦労して育てた自身の会社であり、そこで働いてきた従業員も大切ですから、このまま会社を廃業にすることもできないことから、信頼できる会社に譲渡することを目的にされる方も増えています。
(3)新規事業を行うため
会社を売却して得られた売却資金を活用し、新会社、新規事業を立ち上げるケースも考えられます。会社の事業が軌道に乗ったところで売却し、それまでの経験をもとに環境に応じた新規事業へと方向転換する方も少なくありません。
(4)会社規模を拡大するため
会社の規模を拡大するために会社売却することもあります。売却先の持つ技術・ノウハウや資金力を活用することによって、経営の安定や既存事業の強化、新規分野への進出も視野に入れることができます。
全国展開している企業に売却することで、これまで地域に限定されていた商品・サービスを全国へ展開することができます。また、販路についても売却先のマーケティング力を活用することで、自社は商品・サービスの開発に専念することも可能です。
このように、会社をより成長・拡大させる方法として売却を行う経営者も少なくありません。
2、会社価格の算定方法
これまで、経営者が自社を売却する目的を見てきました。ここでは、実際に会社にはいくらの値がつくのか?その算定方法について見ていきます。
会社価格の算定方法には大きく分類するとコストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチの3つに分けることができます。
以下、これら3手法について解説していきます。
(1)コストアプローチ
①簿価純資産法
簿価純資産法とは、貸借対照表上の資産から負債を控除した純資産から株式価値を算定する方法です。会社の純資産を株式価値とみなす考え方なので、純資産を発行済み株式総数で除することで、一株当たりの会社価値が算定できます。
②時価純資産法
簿価純資産法が簿価そのままの資産と負債を使用するのに対し、時価純資産法は、資産と負債の全てを時価に換算します。
そして、時価換算した資産と負債の差額としての純資産を用いて会社価値算定する方法が、時価純資産法です。
コストアプローチは貸借対照表の純資産をベースとしているため、客観性・公平性が高い評価方法と言えます。中小企業経営者にとって分かりやすく、そのため採用されることも多い方法です。また、貸借対照表を作成すれば、すぐに評価を行える点が特徴です。
一方、純資産をベースにしていることから、過去の実績に対する評価となり、将来の収益性を考慮していないというデメリットがあります。
(2)インカムアプローチ
①DCF(Discounted Cash Flow)法
DCF法は、会社が将来生み出す収益力によって価値が算定される方法です。将来予測をベースに算出しますので、将来の事業計画の作り方によっては価値が大きく変わってしまいます。
将来計画が信ぴょう性のあるものでなければ、算定された価値も信用できないものとなります。DCF法は価値を意図的に操作することができるため将来計画の信ぴょう性が高いものあることが重要です。
②配当還元(Ⅾividend Discount Method)法
配当還元法とは、株主へ支払う配当金額をベースに、会社価値を評価する方法です。将来支払う配当金の期待値を現在価値に割引くことによって会社価値が算定されます。
配当をする予定が当面ない企業や成長企業であっても配当していない企業については会社価値の計算ができず、また、安定的に配当があっても少額配当を継続している場合は、企業評価は過小になりやすいというデメリットがあります。
この評価法は、企業の配当政策と収益力の関連性が高い場合に適した方法と言えます。
(3)マーケットアプローチ
①市場株価法
市場株価法は、上場会社の会社価値を算定する場合に利用されます。
上場会社の株価は、長期的には会社の収益力等に基づく会社価値を適正に反映していると考えられます。一方、短期的には会社価値と無関係に変動することもあるため、一般的には日々の終値を1~3ヵ月程度の期間で平均を取り、これをその会社の価値とする場合が多くあります。
②類似会社比準法
類似会社比準法とは、主に非上場会社の会社価値を算定したい場合に活用されます。非上場会社は市場価値がないため、評価対象会社に類似した上場会社の株価をベースに評価対象の会社価値を算定する方法をとります。
たとえば、会社規模や顧客層、事業構造、製品・サービスの種類などを基準として、同じ業界の上場企業の中から似通っている企業を選定し、PERやPBRなどの指標等も活用して、類似会社の株価から評価対象会社の株式価値を算定します。
類似会社比準法は、選択した類似企業が妥当性であるかと言った問題や、たとえば、ベンチャー企業のように類似した業種・規模などが存在しない場合に適切な評価ができないと言った問題があります。
また上場企業の株価に影響を受けることから、その評価対象企業が持つ本来の価値を過大評価また過小評価することもありますので注意が必要です。
類似会社比準法はマルチプル法とも言いますので、詳細は下記記事を参照にしてみてください。
3、会社価格に影響を与える無形の資産
企業会計の中で無形資産は、企業努力などにより自然に発生したものは認められず、対外的な取引を通じて取得したもののみ資産計上が認められています。
しかし、無形資産は、非常に多岐に渡っていて、経営者の経営理念や従業員、得意先リスト、技術、ノウハウ、ブランドイメージなど、様々なものがあります。
これらの「知的資産」についても、上記の算定方法において組入れるべき要素となります。
4、BS(貸借対照表)、PL(損益計算書)で会社価格算定に重要視される項目は?
BS、PLは会社の財政状態や経営成績を表すものとして、その数値は会社価格算定の際においても重要視されます。
以下で重要視される項目について見ていきましょう。
(1)資産科目
BSの資産においては売掛金や未収金の金銭債権が重要視されます。なぜなら、これらは必ずしも回収できるとは限らないからです。これら金銭債権は、回収可能性を適切に見積もり、回収不能分についてはその金額を減額する必要があります。
また、有形無形の固定資産についても、含み損がある場合があるので注意が必要です。含み損がある場合には、簿価を減額するなど適切に評価替えを行いましょう。
(2)負債項目
BSの負債については、借入金の金額とともに返済スケジュールが重要です。将来キャッシュフローで、十分に返済可能であることが重要となります。
また、退職給付引当金も注意が必要です。退職金の引当額が十分でなければ、買収会社は将来思わぬ負担を強いられることになり、買収を躊躇することがあります。退職給付引当額の妥当性についても確認しましょう。
(3)損益項目
PL項目については売上高や営業利益、純利益などの各段階損益はもちろんですが、売上高利益率や株主資本利益率(ROE)、一株当たり利益率(PER)などの比率分析についても重要視されます。
これらの比率分析は他社との比較により、会社の将来の成長力、収益力を測るうえで、参考値として重要視されます。
5、会社価格の算定シミュレーション
これまで述べてきたように、会社価値の算定にはいくつかの方法があります。ここでは時価純資産法、DCF法、類似会社比準法について例を用いて算定していきます。
(1)時価純資産法による株式価値の算定方法
①試算前提条件
- 資産(時価):8,000万円
- 負債(時価):5,000万円
- 発行済み株式数:1万株
②計算例
・会社価値 = 資産(時価)—負債(時価)
= 8,000万円—5,000万円
= 3,000万円
・株式価値 = 会社価値 ÷ 発行済株式数
= 3,000万円 ÷ 1万株
= 3,000円
(2)DCF法による株式価値の算定方法
①試算前提条件
- 1年目から10年目まで毎年のフリーキャッシュフロー見込額:100万円
- 割引率:5%
②計算例
会社価値 = {1年目フリーキャッシュフロー(割引率で現在価値化)
+ 2年目フリーキャッシュフロー(割引率で現在価値化)
+ ・・・
+ (N年目)フリーキャッシュフロー(割引率で現在価値化)}
= 100万円/(1+0.05)
+100万円/(1+0.05)²
+ ・・・
+100万円/(1+0.05)10
≒ 772万円
したがって、会社の価値は772万円となります。
株式価値= 会社価値 ÷ 発行済株式数
= 772万円 ÷ 1万株
= 772円
(3)類似会社比準法
①試算前提条件
<評価対象会社>
- 1株当たり利益額:100万円
- 1株当たり純資産額:2,000万円
- 1株当たり配当金額:500円
- 発行済み株式数:500株
<類似会社>
- 株価:5,000円
- 1株当たり利益額:1,500万円
- 1株当たり純資産額:12,000万円
- 1株当たり配当金額:500円
②計算例
比較要素は、利益、純資産、配当を選定。各要素のウェイトを1:1:1とした場合の計算式は下記の通りとなります。
対象会社の1株当たり株価評価額
=類似企業株価×(利益額の比準割合+純資産額の比準割合+配当金額の比準割合)× 1/3
- 利益額の比準割合=対象会社の1株当たりの利益額÷類似会社の1株当たりの利益額
- 純資産額の比準割合=対象会社の1株当たりの純資産額÷類似会社の1株当たりの純資産額
- 配当金額の比準割合=対象会社の1株当たりの配当金額÷類似会社の1株当たりの配当金額
上記より、対象会社の1株あたり会社価値は
= 5,000円×(100万円/1,500万円 + 2,000万円/12,000万円 + 500円/500円) × 1/3
≒ 2,056円
となります。
また、会社価値は2,056円×500株 = 102.8万円となります。
類似の場合は、比較する対象会社を選ぶことが非常に重要なことで、比較会社が間違えてしまうとその算定価格が大きく乖離してしまう可能性があります。
特に非上場会社は株価は明確になっていなので、注意する必要があります。
(4)まずは会社価値の概算を知るには
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まとめ
今回は会社価格の算定方法ついて解説いたしました。計算方法によって金額が異なるため、まずは、どの方法を採用するのが最も適した方法であるかを見極めることが必要です。
そして、会社の評価には、貸借対照表や損益計算書などの目に見える数値情報のみならず、さまざまな要素がこれらに加えることで、より適正な評価が可能となります。
たとえば、資産の含み益や含み損、ブランドイメージなどの知的資産、簿外債務、将来の成長性や収益性なども加味することで、より適正な会社価値が算定できます。
会社価値を適正に算定することは、非常に難易度の高いため、専門家の力が必須となってくるでしょう。
会社売却を希望している経営者はM&Aを専門とする公認会計士や税理士などの専門家に依頼することをおすすめします。
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