2019年12月のM&A件数、前年と変わらず ~1,000億円超の大型案件は相次ぐ

2019年12月のM&Aの件数は前年同月と同数の77件だった。年間を通じて最多だった前月(86件)に比べて9件減ったものの、月別では4番目の多さだった。日銀による金融緩和や労働市場の人材不足などを受けて、M&A市場の活況はなお続いている。今月は大型M&Aが相次いだ。昭和電工が9640億円を投じて日立化成を子会社化するのをはじめ、買収金額が1,000億円を超える案件は6件に上り、このうち4件が年間ランキングのトップ10に入った

全上場企業に義務づけられた適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、ストライク(M&A Online)が集計した。

1、日立、「日立化成」など売却へ

12月のM&Aの総開示件数77件の内訳は買収59件、売却18件(買収側と売却側の双方が開示したケースは買収側でカウント)。このうち売却については4月と8月の16件を超えて年間最多だった。また、総開示件数中、海外案件は16件(買収9件、売却7件)あった。

昭和電工は日立製作所傘下で東証1部上場の日立化成をTOB(株式公開買い付け)によって完全子会社化すると発表した。2020年2月からTOB開始を予定する。最大9,640億円に上る買収金額は日本企業がかかわる2019年のM&Aとして2番目の規模で、豪ビール大手を約1兆2,000億円で買収するアサヒグループホールディングスの案件に次ぐ

日立化成は1962年に日立から分離独立し、日立グループでかつて日立金属、日立電線(現日立金属)と並んで“御三家”の一角をなした名門。子会社化後、昭和電工の連結売上高は1兆7000億円規模(現在約1兆円)となり、三菱ケミカルホールディングス、住友化学に続く化学業界3位に躍進する。

2、いすゞ、ボルボ傘下のUDトラックスを買収

アステラスは米バイオ企業のオーデンテス・セラピューティクスを約3,200億円で買収する。これとは別に12月中に、がん免疫治療医薬品開発の米ザイフォス・バイオサイエンシズも約130億円で子会社化。開発の進捗に応じて支払う対価を合わせると、買収金額は最大約730億円になるという。

いすゞはスウェーデンの商用車大手ボルボとの業務提携に合わせ、ボルボ子会社のUDトラックス(旧日産ディーゼル工業、埼玉県上尾市)を買収することを決めた。買収金額は今後詰めるが、UDトラックスの事業価値について2,500億円程度と見積もっている

3、HOYA、ユニゾで“変則的”TOB

注目を集めたのが不動産・ホテル業のユニゾホールディングスだ。従業員による買収(EBO=エンプロイー・バイアウト)を実施して非公開化すると発表した。従業員と米投資ファンドのローン・スターが出資する新会社がユニゾにTOBを行い、全株取得を目指す内容で、12月24日から買い付けが始まった。ユニゾに関しては別の米投資会社によるTOBが8月から現在も進行中だが、ユニゾはこのTOBに反対しており、対抗措置を打ち出した形だ。

4、ヤマダ電機、大塚家具を子会社化

上場企業の経営権の掌握を目指す動きはほかにもある。

ヤマダ電機は経営再建中の大塚家具を12月30日付で子会社化した第三者割当増資を約44億円で引き受け、51%強の株式を取得した。ヤマダはリフォームやインテリアなどの売場を充実した「家電住まいる館」の展開を推し進めている。

加賀電子は同業の電子部品商社であるエクセルと2020年4月に経営統合すると発表した。旧村上ファンド系の投資会社が主導する買収スキームに基づき、加賀電子はエクセルの全株式を1億円で取得する。加賀電子は約82億円を負ののれん発生益として特別利益に計上する。

長谷工コーポレーションは細田工務店に対して完全子会社化を目的にTOBを実施する。買付代金は最大24億3,600万円。戸建て住宅分野への本格進出に向けた足がかりとする。

2019年Dec M&A金額上位案件

1 昭和電工、日立化成を子会社化(9640億円)
2 アステラス製薬、遺伝子治療分野強化へ米バイオ企業のオーデンテス・セラピューティクスを子会社化(3200億円)
3 いすゞ自動車、スウェーデンの商用車大手ボルボ傘下のUDトラックス(埼玉県上尾市)を子会社化(2500億円)
4 富士フイルムホールディングス、日立製作所から画像診断関連事業を取得(1790億円)
5 ユニゾホールディングス、従業員による買収(EBO)で非公開化(1745億円)
6 HOYA、半導体製造装置メーカーのニューフレアテクノロジーをTOBで子会社化(1477億円)
7 東和薬品、スペインの後発医薬品メーカーPensa Investmentを子会社化(389億円)
8 ミネベアミツミ、アナログ半導体メーカーのエイブリック(千葉市)を子会社化(343億円)
9 ソニー、子ども向けアニメ制作会社の米シルバーゲートを子会社化(213億円)
10 アステラス製薬、がん免疫治療医薬品開発の米ザイフォス・サイエンシズを子会社化(130億円)
以下、10億円超
11 栗田工業、精密洗浄大手の米ペンタゴン・テクノロジーズを子会社化(58.7億円)
12 ヤマダ電機、経営再建中の大塚家具を子会社化(43.7億円)
13 サッポロホールディングス、米飲料統括持ち株会社カントリーピュアフーズを現地社に譲渡(40億円)
14 長谷工コーポレーション、細田工務店をTOBで子会社化(24.3億円)
15 コマニー、間仕切り製造の中国子会社を現地社に譲渡(16.8億円)
16 新田ゼラチン、コラーゲンケーシングの米子会社を現地社に譲渡(14.5億円)
17 Eストアー、ECサイト構築ソフト開発のコマースニジュウイチ(東京都港区)を子会社化(13億円)
18 ミンカブ・ジ・インフォノイド、システム開発のProp Tech plus(東京都港区)を子会社化(12.9億円)
19 GA technologies、高級賃貸サービスサイト運営のモダンスタンダード(東京都港区)を子会社化(10億円)
八木チエ

八木チエM&A INFO プロデューサー

投稿者プロフィール

大学卒業後、7年間IT会社の営業を経験し、弁護士事務所に転職。
弁護士事務所で培った不動産投資の知識を活かし、業界初の不動産投資に特化したメディアを立ち上げ。2018年に株式会社エワルエージェントを設立。不動産投資「Estate Luv」、保険「Insurance Luv」などのメディア運営やメディアのコンサル事業に特化。
M&A業界が盛んになった今、M&Aの情報を正しく伝えたい、もっと多くの人にM&Aの魅力を知ってもらいたいと思い、M&Aに特化したメディア「M&A INFO」を立ち上げ。より有益な情報を多く配信している。

この著者の最新の記事

関連記事

ピックアップ記事

  1. こちらの記事をお読みの方の中で、会社、企業を売りたいと検討されている方もいらっしゃるのではないで…
  2. M&Aを検討しているものの、どこに依頼したらいいのかと分からない方も多いのではないでしょうか…
  3. 「起業しても1年で半分の会社がなくなる、10年以上続いている会社はわずか1%」 と…
  4. 人材の採用・育成が大変だから、優秀な人材を抱えている会社を買いたい 新規事業の開発をしたい…
  5. 「M&A」という言葉は、経営者であれば一度は聞いたことがある方はほとんどでしょう。 …
  6. 少子高齢化による人材不足、経営環境の変化など様々な問題の影響により、数十年も経営してきた会社の事…
ページ上部へ戻る