何十年も続いた会社、やはりできるなら親族内で承継したいと考えている経営者は多いのではないでしょうか。
しかし、初めての親族内承継なので、
- どのような方法があるのか
- 親族内で承継するメリット・デメリットは?
- 承継するにはどのような流れなの?
など、分からないことだらけで、どこから始めたらいいのかが分からない方も少なくないでしょう。
そこで今回は、親族内で会社を承継する時に知っておくべき知識をまとめました。これから親族内承継を検討されている方は、ぜひこちらの記事を参考にしてみてください。
1、親族内承継の3つの方法
まず最初に、親族内で会社を承継する時の3つの方法をご紹介します。
(1)生前贈与により会社を承継する
生前贈与は、言葉の通りに現経営者がいるうちに、後継者に会社を贈与する形で承継する方法です。
生前贈与にする場合、「贈与税」が発生します。
①生前贈与の2つのメリット
生前贈与にて会社を承継する場合、下記のメリットが挙げられます。
■後継者を育てることができる
会社を引き継ぐわけですから、いきなり後継者に会社を引き継がせるにはリスクが大きいです。
一般的には、後継者にしばらく会社で働いてもらい、会社の事業から経営まで一通り教える必要があります。もちろんケースバイケースですが、この期間は10年前後が一つの目安だそうです。
■節税対策を立てることができる
生前贈与の場合、毎年110万円の非課税枠があります。
こちらの非課税枠を毎年活用することによって、ある程度の節税には繋がります。
②生前贈与の2つのデメリットと回避策
一方、生前贈与には下記2つのデメリットが挙げられます。
■贈与税が高くなる可能性が大きい
上記毎年110万円の非課税枠を活用して、節税対策を立てることができると書きましたが、中小企業でも会社の評価額は数千万円から億単位までいくケースが多くあります。
毎年の110万円の非課税枠はあるまでも一時的な対策であって、実際に会社を承継した時は、多額の贈与税を課税される場合があります。例えば、6,000万円の評価額が出た会社を生前贈与によって取得した場合、なんと贈与税は「28,395,000円」もかかります。
なお、贈与税対策として、贈与額の2,500万円までは非課税で、それを超えた金額に対して一律「20%」と課税する「相続時精算課税制度」という制度を利用することができますが、相続する財産によって、相続税が高額になる場合もありますので、より的確な節税対策を立てるには公認会計士に相談するようにしましょう。
贈与税の計算方法及び相続時精算課税制度について詳しくは下記記事を参考にしてみてください。
■後継者を変更することができない
相続と異なって、生前贈与の場合、後継者を変更することができません。
従って、後継者を指定する前に、ちゃんと見極めることが非常に重要です。
(2)相続により会社を承継する
2つ目の方法は、相続により会社を承継する方法です。
①相続により会社を承継する2つのメリット
生前贈与と比較して、相続により会社を承継するには下記2つのメリットが挙げられます。
■非課税枠が多いため、税金が安くなる場合がある
贈与税の110万円の非課税枠と比較して、相続税の場合「3,000万円+600万円☓法定相続人」の非課税枠が大きいです。
具体的に相続する財産を計算しないといけないですが、贈与税より税金を安くなる場合があると言えます。
■後継者を変更することができる
生前贈与の場合、一度後継者を指名すると変更することができないのですが、相続の場合、後継者を変更することができます。
一度指名したのですが、実際に一緒に働いてみるとやはり会社を引き継がせることに不安な場合、他の選択肢を選ぶことができます。
親族内承継以外の選択肢について「5、無理して親族内承継する必要ない?その他の事業承継の方法」を参考にしてみてください。
②相続により会社を承継する2つのデメリットと回避策
続いて、相続により会社を承継する時のデメリットを書いていきます。
■相続税を支払うための現金を用意する必要がある
相続税の非課税枠が大きく、贈与税より安くなる可能性があるとは言え、支払わなくていいというわけではありません。もちろん相続する財産にもよりますが、相続税を支払う現金を用意する必要があること認識しておきましょう。
なお、国は事業承継促進のため、相続税、贈与税の猶予制度が実施されました。制度を利用には制限がありますので、詳しくは下記記事を参考にしてみてください。
■株が分散される可能性がある
きちんと会社の後継者に相続させる遺言書を作っているのであればいいのですが、突然のことで、現経営者が急に他界した場合、会社は法定相続に対象となり、法定相続人が複数いる場合、株が分散してしまい本来の後継者は経営権が得られない可能性があります。
そうならないためには、事前に遺言書を作っておくといいでしょう。また、確実性を高めるには公証役場にて「公証証書遺言書」にするといいでしょう。
■遺留分減殺請求の可能性がある
遺留分とは、法定相続人の権利を保障することを言います。
例えば、遺言書で会社を後継者に全て相続させると書いても、他の法定相続人はこれに従わない場合も考えられます。そうすると、相続を受けていない法定相続人は遺留分減殺請求をすれば、株の分散に繋がるリスクが出てきます。
遺留分減殺請求の対処方法としては、「無議決権株式」を発行する方法があります。分かりやすく言うと、株の価値はありますが、議決権はない株式のことです。そうすることによって、遺留分減殺請求をした法定相続人にきちんと株式が渡り、会社の経営には支障が出なくて済みます。
(3)後継者より会社を買収する方法
3つ目の方法は、後継者が会社を買収する方法です。
①後継者より会社を買収するメリット
後継者より会社を買収するとなると、単なる売買になりますから、相続税も贈与税も一切関係なくなります。
また、相続で株が分散するなどのリスクも全てなくなります。
②後継者より会社を買収するデメリットと回避策
後継者より会社を買収するには、下記のデメリットが挙げられます。
■ファイナンスの課題
会社を買収するとなると、最も大きな課題はファイナンスです。また、買収の場合、会社が現在抱えている全ての債権も全て買うことになり、現経営者が連帯保証人になっている債権も全て後継者が引き継ぎますので、金融機関から認めてもらえない可能性があります。
事前に後継者にある程度の財産を渡す必要が出てきます。
なお、会社買収する時のファイナンスについて下記記事を参考にしてみてください。
■現経営者に法人税が課税される
会社の売買となると、現経営者に「会社売却益☓30%」の法人税が課税されます。
また、現金での相続は対策立てられないので、事前に売却益の使いみちを決めておくといいでしょう。
2、親族内承継のメリット
自分で努力した会社を親族内で承継してもらうことに対して、嬉しく思う経営者が多いのではないでしょうか。
親族内承継するには、大きく下記2つのメリットが挙げらげます。
(1)家業として代々繋いでいく
親族内承継の最も大きなメリットは、やはり家業として代々繋いでいくことではないかと思います。
また、きちんと後継者として会社で修業していれば、社員やクライアントにも受け入れやすく、スムーズに承継することができると言えるでしょう。
(2)会社の承継に余裕を持てる
親族内で承継する場合、前もって準備することができます。
もちろん後継者の意思もありますが、前もって後継者として育てることができます。60歳になってから初めて後継者問題を考える経営者も多いですが、後継者としての素質を見極めるためにも、余裕持って早めに会社に入ってもらうようにしましょう。
3、親族内承継のデメリットと回避策
一方、親族内承継だからこそのデメリットもあります。
(1)親族内に後継者の適任者がいない
- 子どもに会社を引き継ぐ意思がない
- 経営者としての素質がない
など、親族内に後継者の適任者がいないリスクもあります。
帝国データバンクの調査データによりますと、今の日本企業において後継者がいない企業は7割近くあるという、非常に深刻な状況であります。
従って、子どもは自分の会社を引き継いでくれる、子どもは自分に似て経営能力があると思いこむのではなく、早めに子どもと話しするようにしましょう。
(2)連帯保証が引き継がれない
一般的には、会社の債務には現経営者が連帯保証人となっているケースがほとんどです。
後継者に会社を引き継ぐとなると、連帯保証人も引き継がないといけないのですが、金融機関は、現経営者を信用してお金を貸しているのですが、後継者にはまだ実績がない、財産がないなどの理由で、現経営者についている連帯保証が引き継げないことも考えられます。
後継者に担保となる財産などを事前に用意する必要があると言えるでしょう。
(3)遺産に巡るトラブルが起きる可能性がある
会社を1人の後継者に全て渡すとなると、他の相続人は不公平となり、贈与、相続で遺産に巡りトラブルが起きる可能性はゼロではありません。
そのトラブルを回避するには、遺言書をきちんと作ることが最も重要です。それから、法定相続人から遺留分減殺請求を防ぐには、「無議決権株式」を発行するなど、対策を立てることも大切です。
4、親族内承継で成功させる4つのポイント
上記には親族内承継のメリット、デメリットなど色々書きましたが、成功させるためのポイントはなんでしょう。
以下にてその4つのポイントを書いていきますので、ぜひ把握しておきましょう。
(1)余裕を持って準備をスタートする
子どもは会社を承継してくれる、経営能力があると思っていたら、実際に事業承継となった時に、後継者がおらず途方に暮れるという事態にならないよう、余裕持って準備を進めることが大切です。
(2)遺言書などの書類をきちんと用意する
「3ー(3)遺産に巡るトラブルが起きる可能性がある」にも書きましたが、会社を丸ごと1人の後継者に引き継ぐとなると、他の法定相続人には不満が出る可能性があります。
相続に巡って親族内で揉めるのは決して珍しいことではないので、スムーズに会社を引き継ぐには、できるだけトラブルを回避するよう、遺言書は前もって作成するようにしましょう。
また、効力を持つには公証役場にも出すようにしましょう。
(3)税金対策をきちんと立てる
生前贈与にしても、相続にしても会社を引き継ぐ場合、贈与税と相続税を課税されます。
上記で書いた「相続時精算課税制度」、「事業承継促進のため、相続税、贈与税の猶予制度」を活用する他に、株式の評価を下げて会社を引き継ぐ方法もあります。
方法としては、
- 不動産を購入する
- 現経営者の退職金を高くする
など、会社の純資産を減らすことで株式の評価を下げることです。
ご自身の状況に合せて、最も適した節税方法を選びましょう。
なお、資産が多い方は、お金のプロである公認会計士にご相談することをオススメします。
(4)無理して親族内で承継しないこと
親族内で承継ができたらいいのですが、引き継ぐ意思もないのに無理やりに承継させると、成功はしないでしょう。
やはり会社を引き継ぐのは一生のことですから、後継者に考える余裕を与えるようにしましょう。また、会社経営ができるよう、きちんと教えてあげることも大切と言えます。
5、無理して親族内承継する必要はない?その他の事業承継の方法
帝国データバンクの「全国後継者不在企業動向調査」のデータによりますと、近年、親族内承継だけではなく、会社の役員により「内部昇格」、M&Aによる外部承継を選択されている会社が増えました。
出典:帝国データバンク「全国後継者不在企業動向調査」(2018年)
大きく下記2つの承継方法が挙げられます。
- 会社の経営幹部による「親族外承継」
- M&Aによる「外部承継」
それぞれの方法について詳しくは下記記事を参考にしてみてください。
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まとめ
今回は親族内承継について書きましたが、参考になりましたでしょうか。
親族内で承継するにはメリットがあれば、デメリットもあります。親族内承継で成功するには、きちんとデメリットを認識し、事前に対策を立てることが重要です。
こちらの記事を参考に、スムーズに親族内承継ができたら幸いです。
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