8月のM&A件数は高水準続く ユニゾへのTOBに注目

全上場企業に義務付けられた東証適時開示のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A仲介のストライク(M&A Online)の集計によりますと、8月のM&Aの取引件数は過去2番目の高水準となったようです。

1、8月M&A、過去2番目の高水準

8月のM&A件数は前年同月比14件減の72件となった。ただ、8月としては過去10年間で最多だった昨年に次ぐ2番目の高水準だった。海外企業を対象とする買収は19件、買収金額10億円超の案件は25件あり、いずれも今年の最多となった。

金額トップは不動産・ホテル業を手がけるユニゾホールディングスの完全子会社化を目的とする米投資会社フォートレス・インベストメント・グループのTOB(株式公開買い付け)案件で、最大1368億円に上る。DICは約1162億円を投じて、ドイツ化学大手BASFから顔料事業を買収することを決めた。

2、ユニゾへの友好的TOB、株価の推移次第か?

米フォートレスがユニゾホールディングスに対してTOB実施を発表したのは8月16日。ユニゾをめぐっては当時、旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)の敵対的TOBが進行していたが、これに対抗してHISを上回る買付価格(1株4000円)を提示し、参戦した。ユニゾ経営陣が賛同する第三者による友好的TOBで、いわゆる“ホワイトナイト(白馬の騎士)”の登場となった。

HISはTOBを通じて所有割合を5%弱から45%に引き上げることを計画したが、TOBは最終的に不調に終わった。フォートレスはユニゾ株の全株式の買い付け(下限は66.7%)を目指しているが、HISの場合と同様に、ユニゾ株が買付価格を上回る高値でこのまま推移すれば、10月1日の期限までに予定数の買い付けが行えず、TOB成立が危ぶまれる。

DICはBASF傘下の顔料事業に関する18社の株式を約1162億円で取得する。買収する当該事業の売上規模は約1170億円(2018年12月期)。DICはインキ世界首位だが、印刷用途での需要が落ち込んでおり、市況に左右されにくい高付加価値領域(ディスプレー、化粧品、自動車など)の化学品へのシフトを重点課題としている。

BASFの顔料事業との製品の相互補完性が高いと判断し、大型M&Aを決断した。2020年末までの買収完了を見込む。

3、調剤薬局のM&Aは活発

調剤薬局のM&Aは引き続き活発だ。クオールホールディングスは大阪府内や奈良県で10店舗を運営するセラ・メディック(堺市)を子会社化した。キリン堂ホールディングスは京都府内で調剤薬局1店舗を取得すると発表したが、相手企業名は明らかにしていない。

また、ソフィアホールディングスはメディプラン(大阪市)から3店舗を取得することを決めた。同社はインターネット関連事業を主力とするが、近年、健康医療事業に軸足を移しつつある調剤薬局のM&Aは今年5件目となる

開示日 銘柄 コード/市場 取引金額 概要
1 8月16日 米フォートレス・
インベストメント・グループ
約1368億円 不動産・ホテル業のユニゾホールディングス(東証1部)の完全子会社化を目的にTOBを実施。エイチ・アイ・エス(HIS)のTOBに対抗。
2 8月29日 DIC 4631 東証1 約1162億円 独化学大手BASFの顔料事業を買収(関連13社を子会社化する内容)。2020年末までの買収完了を目指す。
3 8月7日 サンデンHD 6444 東証1 500億円 業務用冷凍・冷蔵ショーケースなどの製造販売子会社サンデン・リテールシステム(群馬県伊勢崎市)を国内投資ファンドのインテグラルに譲渡。
4 8月8日 レンゴー 3941 東証1 約323億円 ドイツ子会社を通じて、産業用重量物包装メーカーのトライコー・パッケージング&ロジスティクスなど現地2社を子会社化。
5 8月14日 エア・ウォーター 4088 東証1 約204億円 産業ガス大手の独リンデからインド事業の一部(酸素、窒素、アルゴンの製造・販売・供給)を取得。
6 8月21日 味の素 2802 東証1 約38億円 液体調味料メーカーの米モア・ザン・グルメ・ホールディングス(オハイオ州)の株式50.1%を取得し子会社化。
7 8月9日 ティーケーピー 3479 マ 29.27億円 レンタルオフィス世界最大手のスイスIWG傘下で、台湾で事業を運営する現地子会社13社(台湾リージャス社)の全株式を取得。
8 8月9日 韓国マジェスティゴルフ 約21億円 ジャスダック上場でゴルフ用品メーカーのマジェスティゴルフ(旧マルマン)にTOBを実施し、完全子会社化へ。
9 8月28日 J-オイルミルズ 2613 東証1 20億円 坂出事業所(香川県坂出市)で手がける倉庫・不動産事業を譲渡。譲渡先は非公表。
10 8月29日 ジー・スリーHD 3647 東証2 11.3億円 太陽光発電事業子会社の永九能源(東京都品川区)の全株式を、ユニ・ロット(大阪市)に譲渡。
11 8月15日 日新製糖 2117 東証1 6.9億円 王子製糖(東京都文京区)の砂糖事業を取得。王子製糖は1952年で、これまで日新製糖と生産面で協力関係にあった。
12 8月28日 カイカ 2315 JQ 6.5億円 システム開発子会社のネクス・ソリューションズ(東京都港区)の全株式を、出版社の実業之日本社に譲渡。
13 8月21日 サンコーテクノ 3425 東証2 約5.5億円 プラスチック成形機などの機械輸入を手がける成光産業(東京都杉並区)の全株式を取得し子会社化。
14 8月1日 アイモバイル 6535 東証1 5億円 スマートフォン向けアプリを企画・開発するオーテ(東京都北区)の全株式を取得。インターネット広告事業のサービス体制強化が狙い。
15 8月19日 北川精機 6327 JQ 4億円 合板プレス機械の製造子会社キタガワエンジニアリングの全保有株式を譲渡(キタガワエンジニアリングが自己株取得する形)。

なお、2019年上期のM&Aの取引件数については下記関連記事を参照にしてみてください。

八木チエ

八木チエM&A INFO プロデューサー

投稿者プロフィール

大学卒業後、7年間IT会社の営業を経験し、弁護士事務所に転職。
弁護士事務所で培った不動産投資の知識を活かし、業界初の不動産投資に特化したメディアを立ち上げ。2018年に株式会社エワルエージェントを設立。不動産投資「Estate Luv」、保険「Insurance Luv」などのメディア運営やメディアのコンサル事業に特化。
M&A業界が盛んになった今、M&Aの情報を正しく伝えたい、もっと多くの人にM&Aの魅力を知ってもらいたいと思い、M&Aに特化したメディア「M&A INFO」を立ち上げ。より有益な情報を多く配信している。

この著者の最新の記事

関連記事

ピックアップ記事

  1. こちらの記事をお読みの方の中で、会社、企業を売りたいと検討されている方もいらっしゃるのではないで…
  2. M&Aを検討しているものの、どこに依頼したらいいのかと分からない方も多いのではないでしょうか…
  3. 「起業しても1年で半分の会社がなくなる、10年以上続いている会社はわずか1%」 と…
  4. 人材の採用・育成が大変だから、優秀な人材を抱えている会社を買いたい 新規事業の開発をしたい…
  5. 「M&A」という言葉は、経営者であれば一度は聞いたことがある方はほとんどでしょう。 …
  6. 少子高齢化による人材不足、経営環境の変化など様々な問題の影響により、数十年も経営してきた会社の事…
ページ上部へ戻る