【過去事例あり】逆さ合併とは?仕組みの特徴や実施時の注意点を紹介
「合併」というビジネス用語はご存知の方も多くいるでしょう。企業同士の合併もあれば、市町村同士の合併もあります。
しかし、「逆さ合併」という用語についてはあまり聞き慣れないのではないでしょうか。
また、「吸収合併」や「新設合併」という形の合併もあり、専門家でもなければかなり理解が難しい分野です。
今回は「逆さ合併」について詳しく解説し、逆さ合併の過去の事例も紹介していきます。
1、逆さ合併とは?
一般的に合併というと、事業規模の大きな会社が、事業規模の小さな会社を吸収するという印象をお持ちではないでしょうか。「逆さ合併」とは文字通りその「逆」の合併です。つまり、事業規模の小さい会社が存続会社となって、事業規模の大きな会社を吸収する合併のことをいいます。
2、逆さ合併が行われる背景
では、なぜこのようなことが行われるのでしょうか?
逆さ合併が行われる目的としては、繰越欠損金の控除や合併差損の回避(後述)があります。また、それらを目的として合併する際、事業規模の小さい会社の方が知名度が高いなど、といったケースが多くあります。
さらに、事業規模の小さい会社が上場会社で、事業規模の大きい会社が非上場会社である場合、逆さ合併を行うことによって非上場会社だった会社が上場企業に昇格できるといったメリットも挙げられます。
3、逆さ合併のメリット
(1)繰越欠損金の控除
事業規模の小さい会社が多額の繰越欠損金を抱えていた場合、資産の含み益を抱えている事業規模の大きい会社と逆さ合併することで、その繰越欠損金が相殺され、合併後に法人税額を抑えることができる、という節税効果のメリットがあります。
ただし、必ずしも繰越欠損金の全額を合併後の存続会社に引き継ぎができるわけではありません。繰越欠損金の引き継ぎに「制限」を設けて繰越欠損金を利用した租税回避を防いでいる制度があります。
例えば、後述するように存続会社と消滅会社との間に、「完全支配関係がある場合」や「支配関係がある場合」の2つのパターンの合併(適格合併)の場合には、「支配関係が5年超である」など、追加の要件を満たして初めて繰越欠損金の全額の引き継ぎが可能となります。
(2)合併差損の回避
例えば、存続会社(小規模会社)が消滅会社(大規模会社)の株式を持っていて、消滅会社が債務超過に陥っている場合、存続会社が保有する消滅会社株式は含み損を抱えていることになります。このまま逆さ合併を行うと、多額の合併差損が計上されることになります。
そこで合併前に存続会社が保有する消滅会社株式の評価を下げておくことで、合併差損の計上を回避することが出来ます。
4、合併の仕組みや特徴は?
ここで、逆さ合併の仕組みや特徴を理解するには、そもそも合併とはどういうものかを知っておかなければなりません。合併には2種類あり、それが「吸収合併」と「新設合併」の2種類があります。
(1)吸収合併
吸収合併とは、一方の会社がもう一方の会社を吸収する合併を言います。吸収された会社(消滅会社)は解散し、全ての資産・負債及び権利義務が存続会社に移転します。消滅会社と言っても、そこで働く従業員は解雇されるわけではなく、存続会社のもとで働くことになります。一般的には規模の大きい会社が規模の小さい会社を吸収し、新会社が誕生するというケースが多いです。
例えば、親会社が子会社を吸収合併する場合などは多くあり、シナジー効果やコスト削減を目的に行います。
合併といえば多くの企業がこの吸収合併の方法を採用しています。
(2)新設合併
新設合併とは、2以上の会社が合併し、新たに設立する会社に全ての権利義務を引き継ぐことをいいます。簡単に言うとA社とB社が合併するために、両社を消滅会社とし、新たにC社を設立するといった形になります。そして、A社とB社の権利義務の全ては、新たに設立されたC社が引き継ぎます。
さて、吸収合併と新設合併の共通点は、新設会社に権利義務を引き継ぐという点にあります。一方で、相違点として吸収合併の場合、既存の会社を存続会社として権利義務を引き継ぐので、新しく会社を設立することはないという点です。
会社の合併について詳しくは下記記事を参照にしてみてください。
5、逆さ合併を実現するためには?
逆さ合併は、既存の会社同士の合併であるため、「吸収合併」にあたります。従って逆さ合併を実現するためには、基本的に「吸収合併」を実現するための手続きと同様となります。
逆さ合併を実現するためには以下の2点が挙げられます。
- 税制適格要件を満たさなければならない
- 存続会社において株主総会の特別決議が必要
特に、税制適格要件を把握しておく必要があります。
(1)税制適格要件とは
税制適格と認められることで、資産負債の移転が簿価であり、移転時において課税は繰り延べられるため、課税がされず節税対策になります。
税制適格要件と認められるためには少なくとも以下の3点は必要となります。
- 100%支配関係のあるグループ内での再編
- 50%越えの支配関係のあるグループ内での再編
- 共同事業を実施するグループ外企業との再編
これらの要件により、まったく関係のない会社を取得しても、繰越欠損金の控除など逆さ合併のメリットを享受できないことになります。
税制適格要件について詳しくは下記記事を参照にしてみてください。
(2)株主総会特別決議について
株主総会特別決議とは、定款の変更、会社の解散・合併など、会社経営の根幹にかかわる議案については普通決議ではなく、より厳しい条件が要求される特別決議によることとされています。すなわち、議決権をもつ株主の過半数を定足数とし、その3分の2以上の賛成によって決議をとらなければなりません。
しかし、逆さ合併のおいては、この特別決議の要件は容易に満たすことができると考えられます。
なぜなら、逆さ合併では存続会社が消滅会社の株主に対して存続会社の株式を交付することで、存続会社の法的な株主となります。すなわち、実質的には存続会社の支配権を消滅会社の株主が握るということになるからです。
つまり、逆さ合併を行う場合、結果として消滅会社の株主の議決権総数が存続会社の株主総会における議決権の大半を占めることとなります。
従って、存続会社の株主総会では、議決権の過半数を有する株主が出席する「特別決議」において、3分の2以上を持って可決することは難しくないと考えられます。
6、逆さ合併が行われた過去の事例
(1)わかしお銀行と三井住友銀行
2003年、三井住友銀行は、度重なる存続の危機に陥りながらも経営を続けていましたが、バブル崩壊による不況によって保有する株式の価値が大幅下落し含み損を抱えていました。一方、保有していた不動産などの財産は含み益のある状態でした。
そこで、子会社であったわかしお銀行が逆さ合併を行い、三井住友銀行が保有していた財産を含み益として帳簿上実現することにします。つまり、保有する株式の含み損を消去することによって経営の健全化を図る目的で行われた逆さ合併となりました。
(2)大阪証券取引所と東京証券取引所
2011年1月1日、大阪証券取引所による東京証券取引所の逆さ合併を行いました。この事例では、上場していた大阪証券取引所が自社よりも大きい非上場の東京証券取引所を合併する形で経営統合し、日本取引所グループが発足しました。
大阪証券取引所の上場廃止対策や国際競争力の向上、取引システムの運営効率化などの理由で両所は合併しました。また、非上場であった東京証券取引所は合併をもって、日本取引所グループとして上場を果たしたことになります。
(3)旧みずほ銀行のみずほコーポレート銀行による逆さ合併
2013年、旧みずほ銀行は、みずほコーポレート銀行により逆さ合併という形で吸収されました。旧みずほ銀行は2011年に発生した東日本大震災の義援金に関するシステムトラブル等による上場廃止を回避するための逆さ合併と言われています。
(4)旧みずほ証券の新光証券による逆さ合併
現在のみずほ証券は2009年に新光証券と旧みずほ証券の逆さ合併により設立されました。旧みずほ証券は、2008年に起きた世界的金融危機リーマン・ショックや、その原因となったサブプライムローン問題で大きな損失を抱えており、上場廃止の危機に陥っていました。そこで、上場維持のため新光証券を存続会社とし、逆さ合併を行った後、合併会社の社名変更により現在のみずほ証券となりました。
7、逆さ合併の注意点
前述したように逆さ合併は、繰越欠損金の控除や合併差損の回避などを目的として行われますが、仕組みは吸収合併と同じです。従って、株主総会の特別決議など吸収合併に必要な手続きを経なければなりません。
実際に逆さ合併(吸収合併)を行う場合にどのような手続きが必要となるのか、事前に整理しておかなければなりません。
登記手続きについても、存続会社と消滅会社で大きく異なります。こうした点は、吸収合併の注意点として整理しておくことが重要です。さらに、会計処理についても、専門家を交えて、検討すべき事項となるでしょう。
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まとめ
逆さ合併は吸収合併の1つの形態と言えます。従って、まずは吸収合併の仕組みや新設合併との違いを理解しておきましょう。その上で、逆さ合併というのは、事業規模の小さい会社を存続会社とする合併であるという点をおさえておきましょう。
また、吸収合併はただ淡々とマニュアル通りに手続きを進めれば良いというわけではありません。高いコミュニケーション能力が求められ状況に応じて臨機応変に対応しなければなりません。
例えば、存続会社、消滅会社双方の社長との交渉や、不満を持つ株主や従業員を説得することは非常に大変な仕事です。それにはM&Aに関する豊富な実務経験と知識がなければ成功できないでしょう。
逆さ合併に限らずM&Aによる吸収合併には法務や税務に精通し、また、深い会計知識が必要です。
それらの専門家である税理士や公認会計士、弁護士など、それぞれの専門分野に関してアドバイザーになってもらうことも大切です。
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