日本企業によるM&A(合併・買収)の勢いが一段と強まっている。2019年上期(1~6月期)のM&Aは394件となり、前年同期を67件上回った。上期として2年ぶりに増加に転じ、2009年以来10年ぶりの高水準に達した。
こちらの記事では、業種別に2019年上半期のM&A件数についてまとました。
東証の適時開示情報を基に経営権の異動を伴うM&A案件(グループ内再編を除く)について、ストライク(M&A online)が集計した。
目次
1、全業種では2009年以来10年ぶりの高水準
2019年上期の全業種のM&Aは394件で、前年同期を67件上回り、2009年以来10年ぶりの高い水準となった。日本企業による海外企業買収が66件と前年同期より19件増えたのが目立った。
一方、金額は約2兆1000億円で、2018年上期より6兆8000億円減少した。2018年上期は武田薬品工業がアイルランド製薬会社シャイアーを6兆円以上の巨費で買収する案件が含まれていたため、大きく減少する結果となった。
金額トップはソフトバンクによるヤフーの子会社化の4565億円、次いで日本ペイントホールディングスによる豪州の塗料大手デュラックスグループの子会社化の3005億円、第一生命ホールディングスによる米生保グレートウェストの既存契約の取得の約1300億円の順となった。
M&A業界の全体の件数について詳しくは「2019年上期M&A件数、10年ぶりの高水準~金額トップはソフトバンク」を参照にしてみてください。
2、住宅・不動産業界のM&Aの件数は10 年ぶりの高水準 トヨタ自動車とパナソニックの住宅事業の統合も
2019年上期(1月-6月)の住宅・不動産業界のM&Aは17件となり、10年ぶりの高水準となった。08年以降では、08年(18件)、09年(同)に次ぐ件数だった。金額は約299億円で08年以降では5番目だった。トヨタ自動車とパナソニックがそれぞれ傘下の住宅事業を2020年1月に統合することを決めるなど、異業種による不動産関連事業の大きな動きもあった。住宅・不動産業界の競争激化や少子・高齢化による市場縮小を見込んだ企業の選択と集中などが背景にある。
金額トップはリログループの約230億円
上期のM&Aで取引金額が最も高かったのは社宅管理や福利厚生運営代行などを手がけるリログループが、カナダのリロケーション(転勤者の留守宅を賃貸する業務)大手のBrookfield RPS Limited を約230億円で完全子会社化する案件。
Brookfieldは世界8カ国14カ所に拠点を持ち、海外赴任に伴う移転・引っ越しや留守宅管理などをグローバルに展開している。リログループは同社を傘下に取り込むことで、北米はもとより、欧州、アジアでのサービス体制を確立し、日本企業の世界展開を後押しする。
不動産の自己勘定投資などを手がけるファーストブラザーズが約26億円で青森地盤の東日本不動産(青森県弘前市)を完全子会社化する案件も取引金額が大きかった。
東日本不動産は事務所ビルや商業施設などを所有・運営しており、ファーストブラザーズは同社を取り込むことで、東北エリアでの事業拡大につなげる。
金額の上位3番目は、不動産販売を手がけるFRACTALEが不動産子会社の池田不動産(東京都大田区)を約17億円で大阪木材相互市場(大阪市港区)に譲渡する案件。
池田不動産は保有不動産の売却に力を注いでいたが、大阪木材相互市場が早期取得に応じる意向を示したのに伴い、全株式の譲渡を決めた。
トヨタ自動車とパナソニックは共同出資の新会社
注目を集めたのが、5月に発表されたトヨタ自動車とパナソニックによる住宅事業の統合だ。両社は共同出資による新会社「プライムライフテクノロジーズ」(東京都)を設立し、この新会社の傘下にトヨタホーム(名古屋市)、ミサワホーム(東京都新宿区)、パナソニックホームズ(大阪府豊中市)を置く。3社合計の戸建住宅供給戸数は年間1万7000戸規模となり、国内住宅業界でトップクラスに立つ。両社住宅事業の統合により事業基盤を強化するとともに、両社の街づくり事業の強みを活用した成長を目指す。
3、2019年上期の建設業界のM&Aの件数は2008年以降で3番目の高水準
2019年上期(1-6月)の建設業界のM&A件数は14件だった。過去最高だった前年同期(22件)からは減少したが、2008年以降では、3番目に多かった。2020年の東京五輪・パラリンピック向けの需要は一段落したものの、建設・土木関連の需要はなお安定しているとの見方が多い。人手不足も深刻化しており、事業拡大を目指す企業による業界内のM&Aが今後も増えそうだ。
金額トップはMBOによる18億5000万円
取引金額は3年連続の前年実績割れの35億3100万円にとどまり、2008年以降の12年間では10番目の低い水準となった。この期に100億円を超える大型案件が無かったのに加え、金額が表示されない株式交換が2件、取引価格を公表しない案件が8件と多かったため金額が伸びなかった。
2019年上期の金額トップはプロスペクトが地下推進埋設工事を手がける子会社の機動建設工業をMBOで譲渡した案件。プロスペクトは機動建設工業の中野正明社長と上原範康副社長が折半出資で設立した機動グローバルホールディングス(大阪市)に保有株式のすべて(94.95%)を18億5000万円で譲渡した。
2番目はコンドーテックによる土木建築用足場などの架払工事を手がけるヒロセ興産(東京都品川区)の完全子会社化。ヒロセ興産は仮設足場などの架払工事で実績を積んできており、最近はレンタル事業にも乗り出していた。コンドーテックは同社を傘下に取り込むことで、維持修繕分野での事業拡大などを目指す。取得価額は10億1500万円。
3番目は第一カッター興業によるコンクリートはつり工事などを手がけるアシレ(横浜市)の完全子会社化。アシレは30年を超える業歴を持っており、第一カッター興業はアシレの技術と人材を取り込むことで、グループの中核事業の補完・強化につなげる。取得価額は6億150万円。
4、調剤薬局・ドラッグストア業界のM&A件数が過去最高を更新
2019年上期(1―6月)の調剤薬局・ドラッグストアのM&A(合併・買収)は11件となり、前年同期を7件上回った。上期としては2012年を上回り、過去最高(2008年以降、当初発表ベース)を更新した。このうちソフィアホールディングスは、2019年1月19日に発表した調剤薬局エイエムファーマ(山口県宇部市)の買収(買収金額2億1500万円)を1週間後に撤回している。
調剤薬局・ドラッグストア業界では、薬剤師不足や競争激化などを背景に再編が加速している。M&A仲介サービス大手、ストライクの金田和也取締役はドラッグストア業界のM&Aの動向について「大手同士の経営統合が検討されるなど、業界の再々編化が進んでいる」と分析。「今後は地方都市の地域一番企業などを巻き込んだ業界再編が進むだろう」と予測している。
ソフィアホールディングスが件数、金額ともトップ
2019年上期の11件中、ソフィアホールディングスが4件、ツルハホールディングスが2件、アインホールディングス、ウエルシアホールディングス、キリン堂ホールディングス、ココカラファイン、スギホールディングスがそれぞれ1件ずつとなった。
システムハウスの草分け的企業であるソフィアホールディングスが、2018年上期から調剤薬局・ドラッグストア分野のM&Aを積極化させているのが件数の増大につながった。
調剤薬局・ドラッグストア業界のM&Aの取引金額は、前年同期比3.9倍の17億3600万円に増加した。ただピークの2017年の146億円の8分の1ほどにとどまった。
金額のトップはソフィアホールディングスが泉州薬局(大阪府岸和田市)を子会社化する案件で、約10億1000万円だった。ウエルシアホールディングスなど他の企業が金額を非公表としていることから、2位から4位までをソフィアホールディングが占めた。
上期に話題を集めたのが、ドラッグストア業界6位のスギホールディングスと同7位のココカラファインが経営統合に向けて協議を始めると発表した案件だ。両社は2019年7月31日をめどに基本合意書の締結を目指すという。
経営統合が実現すれば、両社合計の売上高は9000億円に迫り、業界首位のウエルシアホールディングスを上回ることになる。
ココカラファインは同5位のマツモトキヨシとの統合の検討も進んでおり、調剤薬局・ドラッグストアの2019年下期は業界再編の大きなうねりが押し寄せそうだ。
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