株式交換の適格要件とは?非適格要件との違いについて徹底解説!
M&Aの手法には様々な方法があり、その1つとして「株式交換」があります。以前は要件が厳しかったため、この「株式交換」という手法を使ってのM&Aはなかなか浸透しませんでした。
しかし、平成28年、29年、30年と立て続けに改正が行われ、徐々に要件が緩和され、株式交換はM&Aの有効な手法として確立しつつあります。
今回は、この「株式交換」について適格要件及び非適格要件について解説したいと思います。
1、株式交換の適格要件とは?
株式交換とは、企業の株式完全子会社にするために、その企業の株式を100%取得するM&A手法です。
株式交換の適格要件とは、親会社の子会社に対する支配力の程度に対して、一定の要件を満たすことで税制上の優遇を受けることができる制度を言います。「適格株式交換」を実行するためにはこれらの要件を満たすことが必要となります。
この要件を満たさない場合の株式交換は「非適格株式交換」となり、税制上の優遇は受けられません。
株式交換においてはこれら適格か非適格かによって、親会社や子会社、さらに子会社の株主に対しても税金関係が変わってくる場合があり、実行する場合には注意しなければなりません。
そのため、株式交換を行う場合は、適格・非適格のそれぞれの場合における税務処理の違いを理解しておく必要があります。
なお、株式交換について詳しく知りたい方は下記記事を参照にしてみてください。
2、株式交換の適格要件の条件
株式交換の適格要件を満たすためには、他の会社に対する支配力の強さにより「完全支配関係」「支配関係」「共同事業目的」の3種類に分けたうえで、それぞれの場合に応じて、7項目の要件を満たす必要があります(下表参照)。
【株式交換の適格要件の条件】
①完全支配関係 | ②支配関係 | ③共同事業目的 | ||
A | 完全支配関係の継続、もしくは支配関係の継続 | 〇 | 〇 | 〇 |
B | 株式以外の不交付 | 〇 | 〇 | 〇 |
C | 従業員の引継ぎ | ― | 〇 | 〇 |
D | 事業の継続 | ― | 〇 | 〇 |
E | 事業の関連性 | ― | ― | 〇 |
F | 株式の継続保有 | ― | ― | 〇 |
G | 規模又は経営参画 | ― | ― | 〇 |
(注)〇:適格要件を満たさなければならない。
以下、支配関係の3種類と7項目についてそれぞれ見ていきましょう。
(1)支配関係の関係3種類
①完全支配関係
親会社が子会社の株式を直接又は間接的に100%保有し、完全に支配している関係を完全支配関係と言います。
②支配関係
支配関係とは、親会社が子会社の株式を50%以上保有している場合を言います。
株式を50%以上保有していると、実質的に会社を支配することができます。
③共同事業目的
株式の保有割合50%以下であっても、他の会社と共同して事業をする目的がある場合は、一定の要件を満たすことで適格株式交換を行うことが可能です。
上記3種類の支配関係が弱くなるに従い、満たさなければならない適格要件は増え、厳格なものとなっていきます。
(2)株式交換の適格要件を満たすための7要件
①完全支配関係の継続、もしくは支配関係の継続
株式交換することに先立って完全支配関係及び支配関係が既に存在していた場合、その関係が株式交換後も維持されることが必要となります。
上表の通りこの要件は、支配力の程度に関係なく全ての場合において満たされなければなりません。
②株式以外の不交付
株式交換は、親会社が子会社の株式を全て取得し、対価として親会社の株式を子会社に交付することで行われます。簡単に言えば、株式をお互い交付しあうことを言います。
しかし、必ずしも子会社に親会社の株式を引き渡さなければならないわけではなく、例えば、子会社に金銭で支払うこともできます。また、他の会社の株式を子会社に譲ることもできます。
原則として、株式の交付が適格要件となっていますが金銭による交付も可能です。
③従業員の引継ぎ
従業員の引継ぎ要件は、支配関係・共同事業目的の場合に求められます。
完全支配関係ではなかった子会社が、株式交換をすることで完全子会社となった場合、そのことに納得いかない従業員が辞職してしまうと、その後の事業に支障をきたすことになります。
従って、株式交換後も従業員のほとんどが継続して会社に在籍するよう努めなければなりません。
具体的には、適格要件を満たすためには子会社の従業員の8割以上が引続きその会社の従業員として従事する見込みであることを要求しています。
④事業の継続
この要件は完全支配関係にある場合は求められていません。
支配関係及び共同事業目的の株式交換の場合には、株式交換後も完全子会社となる会社の主たる事業が継続して行われることを要求しています。
⑤事業の関連性
共同事業目的の株式交換については、親会社・子会社双方の事業が相互に関連を持っている事業であることが要件となっています。複数の事業を行っている場合は、そのうちの一部の事業でも関連のある事業を行っていれば大丈夫です。
⑥株式の継続保有
共同事業目的の株式交換の場合、交付される親会社の株式を、子会社株主が株式交換後も継続して保有する形でなければ、要件を満たすことはできないとされています。
⑦規模、又は経営参画
共同事業目的の場合のみとなりますが、規模や経営参画に関する要件が求められます。
具体的には、以下のいずれかを満たす必要があります。
- 親会社の規模が子会社の規模の5倍を超えていないこと
- 子会社役員が株式交換後も退任せずに引続き子会社役員として現任すること
いずれかの要件を満たすこととなっているので、規模が5倍以上の企業でも、経営に参画していればよく、また、子会社の役員は一人でも引続き現任となっていれば、他の役員全員が退任したとしても要件を満たすことができます。
3、株式交換の適格要件における税務処理
では、適格要件及び非適格要件のそれぞれの場合における、親会社や子会社、子会社の株主の課税関係について見ていきます。
(1)適格株式交換の税務処理
①完全親会社
株式交換の適格要件を満たす場合、完全親会社には税金が発生することはありません。しかし、子会社株式の取得価額の算定方法については、完全子会社となる会社の株主の数が50人以上かそれ未満かによって異なってきます。
■完全子会社の株主の数が50人未満の場合
株式交換前の完全子会社の株主の数が50人未満の場合は、株式交換直前における個々の株主が有する株式の帳簿価額を合計し、さらに必要経費を加算した額が取得価額となります。
一般的に株式の帳簿価額は、直近の決算時の株価となるでしょう。仮に決算から数か月たち、株価が変わっていたとしても、その帳簿価額を使用します。
■完全子会社の株主の数が50人以上の場合
株式交換前において50人以上の株主がいる場合は、前期末における簿価純資産価額に必要経費を加算した額が取得価額となります。
平成28年度以前は株式交換直前における簿価純資産価額をそのまま使用していましたが、平成28年度の税制改正で、前期末の簿価純資産価額を使用することとなりました。
簿価純資産価額とは、貸借対照表に計上されている資産から負債を控除した純資産の価額を言います。時価を使用しないので実態とはかけ離れる可能性がありますが、事務作業の負担を軽減できるというメリットがあります。
②完全子会社
完全子会社は株式交換をしても税金が発生することはありません。なぜなら、完全子会社にとっては株式交換をしても株主構成が交換前と変わるだけだからです。
③完全子会社の株主
適格株式交換においては、完全子会社の株主に税金が発生することはありません。
(2)非適格株式交換の税務処理
次に非適格株式交換の場合、どのように税務処理されるのか見ていきましょう。
①完全親会社
非適格株式交換においては、適格株式交換の場合と同様、完全親会社に税金が発生することはありません。
ただし、子会社株式の取得価額の算定については、適格株式交換の場合とは異なります。
つまり、非適格株式交換ではその取得価額の算定において、完全子会社の株主の数による場合分けはなく、常に時価で取得価額を算定することになります。
【株式交換における子会社株式取得価額の算定方法】
株主数 | 算定方法 | |
適格株式交換 | 50人未満 | 帳簿価額 |
50人以上 | 簿価純資産価額 | |
非適格株式交換 | ― | 時価 |
②完全子会社
非適格株式交換では、完全子会社は対象となる資産を時価評価する必要があります。そしてその評価損益に対して課税されます。時価評価の対象となる資産は、以下の5項目となります。
- 金銭債権
- 有価証券
- 固定資産
- 土地(土地の上に存する権利を含む)
- 繰延資産
また、以下の3項目については時価評価の対象とはなりません。
- 売買目的有価証券
- 含み損益が1,000万円以下の資産
- 簿価1,000万円以下の資産
③完全子会社の株主
非適格株式交換の場合は、交付される対価として完全親会社の株式のみの場合は、完全子会社の株主に対して税金が発生することはありません。
一方、金銭が含まれる場合は、親会社に交付した子会社株式の時価と親会社から交付される金銭の対価との差額は利益とみなされます。そして、その利益に対して、株主が法人の場合は法人税、個人の場合は所得税が課されることになります。
株式に課される所得税は原則として分離課税となり、この場合、所得税、住民税、復興特別所得税として合計20.315%の税率がかかります。
法人の場合は、法人の事業からの利益に株式交換で得た譲渡益を合算し、法人税約36%が課されます。
【非適格株式交換で完全子会社株主にかかる税金】
親会社から交付される対価 | 課される税金 |
親会社株式のみ | なし |
金銭を含む | 所得税又は法人税 |
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まとめ
株式交換の税務は、頻繁に税制改正がなされ、非常に複雑なものとなっているので、公認会計士や税理士などM&Aの専門家のサポートを受けながら、慎重に対処する必要があります。
M&Aは株式交換も含め他にも法制度が整備されM&Aは今後、ますます増えていくでしょう。企業再編を検討している経営者の方は、株式交換を有力なM&A手法の一つとして内容を十分理解しておく必要があります。
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