小売業をM&A・売却!法人や自営業の違いやメリット・デメリットを解説
少子高齢化や人口減少などにより、市場が縮小傾向にある現状において、小売業界の競争がさらに熾烈化していくと予想されます。
今後、企業が生き残り、さらなる成長・拡大を図るためにはM&Aを活用することが必要不可欠になっていくでしょう。
そこで今回は、小売業界の特徴、M&A・会社売却の動向や、メリット・デメリットなどについて解説していきます。
目次
1、そもそも小売業界とは?小売業界の特徴
小売業界と一言で言っても、小売業界が具体的にどのような業界なのかをイメージできる方は少ないのではないでしょうか。
小売業界とは、一般消費者である個人に対し、物を販売する、サービスを提供する会社を言います。一方で個人ではなく会社に対して物の販売、サービス提供する会社を卸売業と言います。
小売業界には百貨店や大型ショッピングモール、スーパーやコンビニなどの全国展開をしているような大企業から、個人経営の八百屋や、魚屋、タバコ屋、酒屋まで様々なものがあります。
上記からもわかるように小売業は私たちの生活に直接関わってくる業界であり、普段の生活の中でとても身近な存在と言えるでしょう。
2、小売業界の現状と今後
(1)小売業界の現状
小売業界は、増税前の駆込みや震災の影響を始め、景気の変動に大きく影響を受ける業界です。したがって、景気が低迷している現在の状況では、消費者の財布の紐も締まりがちになり、業績はあまり芳しくないのが実状としてあります。
古くから経営している老舗百貨店は、地方店の閉店が相次いでおり、長い間地域を支えた百貨店であっても、消費者の動向が読みにくい傾向が見られます。その結果、さらに規模の大きいショッピングモールや、ショッピングセンターに顧客が流れてしまうケースが各所で見られます。
(2)消費者動向の把握が重要
その一方で、消費者の興味をいち早く察知し、商品を入れ替えていく業態の場合には調子を上げつつあります。
その代表として「株式会社ドン・キホーテ」があげられます。「ドン・キホーテ」はどの層にも受け入れやすい商品を低価格で揃え、季節も反映させた商品を置くことにより、消費者の需要を満たしています。
(3)「セルフ化」の導入
小売業界での大きな問題として、人件費の問題があります。削減するべき費用ですが、デメリットとして、サービス力の低下や品質の低下なども考えられ、企業のイメージに大きく影響するでしょう。近年ではこれを解消する案として、「セルフ化」が検討されています。
3、法人小売業のM&Aの特徴
(1)市場規模に対応するM&A は活発
小売業もともと競争が激しく、M&Aは、活発に行われてきました。
日本人は流行に敏感で移り変わりが激しいという特徴があるため、大手企業などは消費者ニーズの早い変化に対応するべくM&Aを活発に行い、他社のノウハウや優秀な人材を獲得していかなければなりません。
昨今、事業規模の拡大や成長のため、大手同士のM&Aも見られるようになってきました。イオングループは、かつて日本一の売上高を誇っていた大手スーパーのダイエーを買収し、完全子会社となりました。
大手企業同士でもM&Aや業務提携などによりお互いが持っているノウハウやブランドイメージを生かして、市場シェアを拡大し、事業の発展を行っています。
(2)異業種への買収も増えている
異業種の買収も活発に行われています。ディスカウントストア業界大手のドン・キホーテHDによる、ファミリーマート傘下ユニーの買収の例があります。
顧客基盤の拡充や、異業種のノウハウの獲得など多くのメリットにつながることから、様々な企業がM&Aを行っているのが現状です。
4、自営業である小売業のM&Aをする際の特徴
自営業の小売店は、その地域に密着しており、地域住民にとってとても身近な存在と言えます。しかし、経営者の高齢化や後継ぎ問題もあり、廃業に追い込まれる事例も相次いでいます。
特に、その地域に住んでいる高齢者にとっては、近所の小売店が閉店することで、距離的に遠くのスーパーや大型ショッピングモールへ行かなければならず、日常生活に影響する場合も出てきます。
そのような状況をクリアするため、大手の小売業などがM&A仲介会社を通して、地域密着型の自営小売店の買収をし、また業務支援を行うケースが増えてきています。
買収側にとっては、その地域の顧客を独占できるというメリットもあり、買い手側と売り手側双方にとって、メリットのあるM&Aと言えるでしょう。
5、小売業界のM&Aを行うメリット
(1)売り手側のメリット
売却側のメリットには、主に以下の3つが挙げられます。
①従業員の雇用確保・後継者問題の解決
小売業は従業員を多く抱えている場合が多い業界です。中小企業や自営業など後継者問題で閉店や廃業を余儀なくされた場合に、そこで勤めている従業員も職を失う事になります。
M&Aを行う事で、従業員の雇用安定と同時に後継者問題の解決を図ることが出来るのです。
②売却益の獲得
創業者は自社を売却することにより資金を得ることが出来ます。
その資金で借入の返済に充てたり、老後資金としたり、また、新事業を始めるための資金とすることができます。
③大手との統合で安定した経営
中小企業や自営業は規模が小さく、資金繰りの問題が常につきまといます。しかし、大手企業とのM&Aにより潤沢な資金が確保され経営の安定化を図ることができます。
(2)買い手側のメリット
一方、買収側のメリットには、以下の5つが挙げられます。
①従業員・スタッフの獲得
大手企業であっても、自社と同じ分野で豊富な経験を有する従業員やスタッフを確保することは困難です。
しかし、M&Aを行うことで買収側は、経験のある従業員やスタッフを確保する事ができ、事業をさらに拡大していくことができます。
②事業エリアの拡大
小売業界は常に新規顧客を確保することが重要です。
M&Aによって買収先の顧客層を取り込む事が出来るため、新規顧客の確保とともに、事業エリアの拡大にもつながります。
③新規事業へ低コストで参入
M&Aを行う事で、買収先の技術やノウハウを取り入れることが出来ます。新業種に参入する場合でも、そのノウハウや既存の顧客をうまく活用することで低コストでの参入が実現できます。
M&Aはリスクを最小限に抑えながら低コストで新規事業に参入できるため、新規事業の成功の可能性を高めることにもつながります。
④競合相手からパートナーへ
M&Aによって今までライバル会社として競合していた会社が、お互い成長・拡大を目指していくパートナーへと変わります。必然的に競合相手を減らすことにつながります。
競争相手が減るというのもM&Aのメリットの一つとなります。
6、小売業界のM&Aを行うデメリット
一方、デメリットもあります。
(1)売り手側のデメリット
売り手側のメリットは主に経営者に対するメリットである場合が多く、デメリットとしては、残された従業員や株主以外の利害関係者が受ける場合が多いと考えられます。
①自社従業員の不満
最もデメリットを受けるのは従業員と考えられます。待遇や勤務地、仕事内容の変更、リストラなど従業員は多くのリスクにさらされ、モチベーションの低下につながる可能性もあります。
こうした待遇面のデメリットは、M&Aを実施する前に従業員へきちんと説明することが必要になってきます。場合によっては、従業員の待遇維持などを売却の条件とすることも検討しなければならないかもしれません。
②人員・システムの統合がうまくいかない
多くの場合、統合といっても売り手企業が買い手企業のシステムに合わせることになります。これまで慣れ親しんだシステムやルールを半ば強制的に変更することは、従業員にとってストレスとなり、結果として生産性が落ちる可能性もあります。
(2)買い手側のデメリット
①企業文化の融合に時間がかかる
一般的に、企業は独自に成長し、その中で社風といわれる企業文化が形成されるものです。社風の全く異なる企業がM&Aにより統合した場合、企業文化の融合に時間がかかり、大きな混乱を招く可能性があります。
②買手による雇用・労働条件の変更、従業員の離職
M&A後に従業員の雇用条件が変更されるケースもあり、従業員がモチベーションを喪失し、退職することも考えられます。
③取引先との関係が損なわれる
長年にわたって良好な関係を築いてきた取引先との関係も、買収によって契約条件の変更や、担当者の変更などで取引先の反発を招き、場合によっては契約打ち切りという可能性があります。
M&A市場では、買収先の将来の収益性を見込んでなされるはずが、社内や社外にいざこざが生じることも珍しくありません。
7、小売業界の売却事例10選
最後に小売事業のM&A実例をご紹介します。
(1)セブン&アイ・ホールディングスとバルスのM&A
2013年12月、株式会社セブン&アイ・ホールディングスは、株式会社バルスの第三者割当増資を引き受け、同社と資本提携しました。
セブン&アイ・ホールディングスは、「セブン‐イレブン」や「イトーヨーカ堂」「ロフト」など数多くの店舗を有する小売業界大手ですが、さらなる拡大を目指して、「Francfranc」ブランドなどのインテリア雑貨店であるバルスをグループに加えました。
(2)楽天とFablicのM&A
2016年9月、楽天株式会社は株式会社Fablicの発行済み株式を全て取得し、完全子会社としました。
楽天は、インターネット通販大手である、一方、Fablicは日本初のフリマアプリ「Fril(フリル)」のサービスを提供している会社です。フリマアプリ最大手のメルカリに対抗すべく、シェア拡大を目指しました。
(3)三越伊勢丹ホールディングスとニッコウトラベルのM&A
2019年4月、株式会社三越伊勢丹ホールディングスは、2017年に既に子会社であった株式会社ニッコウトラベルを吸収合併という形で完全子会社化しました。
三越伊勢丹ホールディングスは、「三越」や「伊勢丹」といった百貨店はもちろん、数多くの事業を手がける企業ですが、国内中心だった旅行部門の強化を図るため、シニア層を主な顧客であり、海外旅行に強く、企画力にも優れているニッコウトラベルを傘下に加えました。
(4)ビックカメラとコジマのM&A
2012年5月、株式会社ビックカメラは株式会社コジマの第三者割当増資を引受け、翌6月に子会社化しました。
両社は全国展開する大手家電量販店です。ビックカメラは主に都市部の主要駅前に店舗を有しており、都市近郊に店舗を多く持つコジマと手を組むことで、グループ全体としてシェア拡大を図りました。
(5)エディオンとフォーレストのM&A
2017年8月、株式会社エディオンはフォーレスト株式会社を完全子会社としました。
エディオンは全国展開する大手家電量販店で、一方のフォーレストは「Forestway」や「ココデカウ」などの通販会社です。eコマース事業分野を強化したいエディオンは、フォーレストの幅広い取扱商品や独自の倉庫運営手法を手にすることができました。
(6)イオンとダイエーのM&A
2015年1月、イオン株式会社は株式会社ダイエーと株式交換を行い完全子会社にしました。
ダイエーは、かつては小売業界で日本一の売上高を誇っていましたが、多角化に失敗し、また本業の不振から経営が悪化し、2013年8月に同じ大手スーパーのイオンの子会社となっていました。イオンはダイエーを完全子会社とすることで、グループ再編し、さらなる事業の拡大を目指しました。
(7)エイチ・ツー・オー リテイリングとイズミヤのM&A
2014年6月、エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社はイズミヤ株式会社と株式交換により経営統合しました。エイチ・ツー・オー リテイリングは「阪神」「阪急」と言った有名百貨店を中心として小売事業を行っている大手企業です。
一方、イズミヤは、中堅スーパーとして関西を基盤とし発展してきました。両社はM&Aによりライバル会社から、パートナーとして関西市場におけるシェア拡大を目指しています。
(8)ローソンと成城石井のM&A
2014年9月、株式会社ローソンは株式会社成城石井の株式を全て取得し、連結子会社としました。
成城石井は、関東圏を中心に高級なブランドイメージを持つ有名スーパーです。このM&Aは、成城石井の方から小売各社に売却の意を示し、3社による競合の末、ローソンが落札しました。ローソンは、独自のブランドをもつ成城石井を傘下に持ち、販路拡大を目指しています。
(9)ウエルシアホールディングスと一本堂のM&A
2018年3月、ウエルシアホールディングス株式会社は株式会社一本堂の株式を全て取得して、完全子会社としました。
ウエルシアホールディングスは、関東を中心として東北から近畿地方まで店舗展開している大手ドラッグストアです。一方の一本堂も、東京都内を中心としたドラッグストアでした。両社はM&Aにより関東圏内の事業基盤の強化を図りました。
(10)ナルミヤインターナショナルとハートフィールのM&A
2019年3月、株式会社ナルミヤインターナショナルは株式会社ハートフィールの全株式を取得して、完全子会社としました。
ナルミヤインターナショナルは、主に女の子向けの子供服を販売してきた会社です。一方、ハートフィールは、主に男の子向けの子供服を販売している会社です。顧客層の拡大を図るM&Aとなりました。
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弊社にて小売事業のM&Aをお手伝いさせて頂いています。
M&Aをご検討されている、債務超過など悩みを抱えているなど、どんなご相談も対応しておりますので、下記お問合せフォームからご連絡ください。
まとめ
「買収」と聞くと何か悪いイメージを抱く方もいらっしゃるかもしれません。しかし、決してそのようなことはなく、売り手側、買い手側双方にとってメリットが多くあります。
自営業の小売業にとっては、深刻化する中小企業の「後継者不足」問題においては、他に譲渡すれば事業を存続させることができます。
また、大手の小売業企業にとっても、互いの経営資源を有効活用し、シナジー効果を発揮して、さらなる成長を図るべくM&Aを行うケースが多くみられます。
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